Guest Essay 北京大学の21世紀発展戦略 北京大学高等教育科学研究所教授・副所長
北京大学は近代中国を代表する国立大学として、百年あまりの歴史を歩んできた。1998年の創立百周年記念式典で掲げられたテーマは、北京大学はきたる百年の扉をどのように開くか、また、21世紀を通じてどのような発展を遂げるべきか、という課題であった。
北京大学の「985」プロジェクト
記念式典の後、北京大学の執行部をはじめとする教職員が21世紀における北京大学の発展方向について幅広く検討し、「985」(1998年5月の意味)というプロジェクトを決定した。これは、いわば「21世紀における北京大学の長期発展計画」であり、次のような内容になっている。
- 21世紀における北京大学の発展目標を明確にし、2020年までに世界の一流大学の仲間入りを果たすこと。
- 世界の一流大学に仲間入りするための基本方針を確定すること。具体的には、
- 中国近代化における諸問題の解決に、北京大学が理論と実践の両面から貢献すること。
- 創造する精神を提唱し、創造性に富んだ人材を送り出す教育機関として北京大学を育てていくこと。未知の世界を認識し、客観的な真理を探求し、科学・文化を発展させる先端的な大学に築き上げていくこと。技術革新によって、学術研究の成果を実際の生産に結びつける能力を有する大学に築き上げること。政府の重要課題、および人類が直面する問題を解決するための科学的根拠を提唱できるような頭脳集団に築き上げること。優秀な民族文化と世界文明の成果を交流するための架け橋となること。
- 規模の拡大を追求するのではなく、質・水準・効率の向上に努めること。
- 改革を進展させ、大学の適応力と活力を高めること。
- 2005年までは全般的な基礎づくりに従事し、2006年から2015年にかけて、世界の一流大学の仲間入りをめざすこと。
主要大学に巨額を投入
このプロジェクトは中央政府の認可と支持を得て、国の「21世紀教育振興計画」の中に組み込まれた。中央政府は、北京大学を含む中国の9つの主要大学に対し、世界の一流大学入りを達成するための資金投入(180億元:約2,700億円)を行うことを決定した。北京大学には、1999年から2001年まで計 18億元(約270億円)の資金が与えられ、研究・教育経費、教員手当として配分されている。
こうした国のバックアップを得て、同プロジェクトは1999年度から実施段階に入っている。具体的な内容は次の通りである。
- 北京医科大学との合併を早急に進め、清華大学、北京航空宇宙大学及び科学院関係部門と「合作」(協力)するとともに、北京市との「共建」(共同して建設・運営を行うこと)体制を作り、国内外との交流を促進している。より開放的、国際的な総合大学を目指して、新しい組織づくりを進めている。
- 管理システムを再編し、組織間の合併や管理事務の簡素化を行っている。管理職に対しては、契約制と任期中の目標責任制を導入した。また、大学内の管理部局を41から19に減らし、管理職の人数を609人から390人に減らした。
- 教育組織を、「系、学院、学部、学校」からなる四段階のシステムに再編・調整し、中間層(学院と学部)により大きな自主裁量権を持たせるようになった。系および再編された学院を土台として、1999年7月、人文学部、社会科学部、理学部、情報プロセス科学部の4つの学部が正式に発足した。学部は主として、学科建設と学術発展計画づくり、教師の資格審査および単位の認定などが中心となる。一方、系と学院は主に学術管理の任にあたる。こうして、関連学科間の交流、連携、整合を促進すると同時に、教育・研究部門と管理部門を分離し、これらが相互に補完し、バランスをとりながら大学を発展させることをめざしている。
- 各系、各学部の発展計画に基づいて教職員の職務を決定し、契約制による職務別採用を実施している。採用された教職員には、毎年3千元(約4万5千円)以上、5万元(約75万円)以下の手当を支給している。同時に、「高レベル創造的人材の育成計画」を実施し、約800人の中堅教師と約200人の中堅管理職の育成プログラムを実施している。また、世界のトップレベルになる見込みのある研究者約50名に対して、特別の支援を行っている。
- 21世紀に向けてのカリキュラム改革案、教育改革案を作成し、科学研究計画および大学が経営する企業の再編計画を立案した。また、財務部門や大学人の衣食住に直接かかわる生協関連部門の改革も試みている。
北京大学の21世紀発展計画構想は雄大なものである。だが客観的にみれば、中国はまだ発展途上国であり、その国力と高等教育の発展水準は、先進国のそれとは大きな格差がある。おそらく、北京大学がこのプロジェクトを実現するには長い年月が必要であろう。筆者も北京大学の教師の一人として微力を尽くしたい。
私は、平成10年度の客員教授として、名古屋大学教育学部で授業をする機会に恵まれました。日本で正規の授業を受け持つのは初めての経験でした。私の担当した「グローバル教育論」という授業は、アメリカの大学では珍しくありませんが、日本ではあまり馴染みがないようです。私はこの授業をミネソタ大学教育大学院の修士課程で、「環境学習とリーダーシップ」という教育プログラムの一環として教えています。