Seminars 高等教育研究センター主催セミナー (平成11年度)
1999年6月30日(第4回客員教授セミナー)
ミネソタ大学の教育改革
ミネソタ大学では、1990年代に入ってから大改革が進行中である。この大規模なリストラクチャリングはU2000と名づけられている。U2000は、2000年までに以下の目標を達成しようとする戦略的プランである。1)学部のミッションと目的を明確にする。2)プログラムの質を高めると同時に対費用効率を改善する。3)「land-grant institution」としての研究・教育面での地域への貢献を維持する。この目標に向けて、徹底した教育プログラムの見直し、弱体で余分なプログラムの廃止、戦略的に見てプライオリティが高いプログラムの強化、人材・財源配分の見直し、外部資金調達の手段確保などが実施されている。
1999年9月7日(第5回招聘セミナー)
ソウル大学の構造調整
ソウル大学では、研究中心大学への構造改革が求められている。それらは、1)研究中心と大学院中心への志向、2)国家が戦略的に支援する基礎学問と社会が必要とする先端学問の強調、3)大学の門戸開放の拡大である。1999年度から基本一般会計1500億ウォン以外に、2003年までの5年間に1兆4000億ウォンをソウル大学に対して重点的に支援する計画が立てられた。この計画に対するソウル大学内の一部教授と他の国立大学の反対によって、その予算はBK21(Brain Korea 21)プロジェクトに移されたが、高等教育予算を特定の大学に集中して配分する傾向が強まっている。ソウル大学師範学部でも大学院中心の改革が進められており、名称を教育科学大学院に変更し、学士課程と大学院課程の学生比率を現行の2:1から1:2にする方向が打ち出されている。
1999年10月6日(第6回招聘セミナー)
オンラインコースの設計
1999年10月7日(第7回招聘セミナー)
オンライン学習のためのFD活動
近年、アメリカではオンラインを利用した学習が増加している。特に成人を対象としたオンライン学習が注目されている。成人は既に経験や知識を持っており、自己決定の能力が備わっており、プラグマティックである場合が多いため、オンライン学習に適応しやすい。オンラインによる教育では、従来とは異なった教師像が求められ、教師は知識を与える以上に学習の促進者になることが求められる。また、ディスカッション・フォーラムを設置するなど教育環境の向上を重要視する必要がある。評価に関しても、学習者がすぐにフィードバックできる簡単な選択式のテストの作成や、参加者全員で作成するインタラクティブ・エッセイの実施など、オンラインの特性を活かした手法が考えられている。
1999年10月18日(第8回招聘セミナー)
カンボジアの高等教育
カンボジアの高等教育は、フランス、旧ソ連、ベトナムの強い影響を受けてきた。60年代に徐々に整備された高等教育は、70年の時点では9つの大学と5千人余の学生を擁したが、ポルポト政権時代に徹底的に破壊された。80年代以降、プノンペン王立大学をはじめ9つの国公立大学、および95年には初の私立大学が設立されている。社会主義型の高等教育システムが残存しているので、いくつもの省庁が自前の大学を監督しており、一元的な高等教育政策が取れない原因となっている。大学カリキュラムや成績評価、試験などの制度はほとんど整備されていない。大学の教科書のうち、国語(クメール語)で書かれたものはほとんどない。国公立大学の授業料は無料であるが、現在では有料化が検討されている。大学予算のほとんどは教職員給与であるが、その水準は極めて低い。このような状況下においては、外国や国際機関からの援助が不可欠である。
1999年10月27日(第9回招聘セミナー)
オーストラリアの大学改革
オーストラリアの高等教育は、この10年間で劇的な構造変化を遂げた。1960年代に導入された大学と高等教育カレッジからなる二元制の高等教育システムは、1989年に「全国一元制度」に切り替えられた。これにより、高等教育機関の統合・合併が促進され、大学間競争に拍車がかかった。現在のオーストラリアでは、同年齢人口の70%以上が何らかの高等教育を受け、39の大学に65万人の大学生が在籍している。政府の高等教育予算は削減されつつあり、各大学は法人格としての自律性を高め、自前の財源を確保することが焦眉となっている。企業との協力関係の強化、カリキュラムの国際化、アカウンタビリティ、生涯学習への対応、マルチメディアの活用など、日本の高等教育との共通点も多くみられる。
1999年12月2日(第5回客員教授セミナー)
1990年代における中国高等教育の再編成
1993年2月の「教育発展と改革に関する要綱」によって、中国の高等教育機関は独立法人格を与えられた。次いで、95年3月に中国初の教育法、98年8月に高等教育法が公布され、学生の分野別配分、教育、研究、社会サービス、国際交流、人事、財政において高等教育機関に一定の自治権が法的に認められるようになった。財政面では、93年から98年まで実施された「211工程」において、61校に130億元の予算が大学に投入された。99年から2001年まで実施される「世界一流大学運営」プロジェクトでは、有力9大学に180億元の資金援助が行われ、研究経費、教育経費、教員手当に配分される予定である。また、共同建設、合作、合併、移管、協同などの方法により、高等教育機関の再編が自発的に進められている。
2000年1月27日(第10回招聘セミナー:総長裁量経費)
中国における高等教育研究の現状
中国において高等教育研究が本格化したのは1970年代の後半である。その草分けとして、廈門大学高等教育研究所が1978年、北京大学高等教育研究所が1980年に設立された。現在、全国に約700の高等教育研究施設があり、約3千人のスタッフが従事している。廈門大学高等教育研究所は中国最大・最高水準の高等教育研究施設であり、スタッフは21名、大学院修士・博士課程プログラムを有する。中国高等教育のマクロ研究および台湾高等教育研究に定評がある。南京大学高等教育研究所は研究者8名、客員教授約10名から構成され、大学院修士課程プログラムおよび教員研修プログラムを有する。中国高等教育百年史の分担制作などに加え、南京大学の改革にも関わっている。
2000年2月24日(第11回招聘セミナー)
英国大学における数学教育の特徴と改革課題
英国における大学の数学教育は、日本とは異なった特徴をもっている。第一に、行き届いたチューター制度である。第二に、徹底した授業のバックアップシステムである。第三に、習得レベルに応じたコースの設定である。BScやBSc HonoursやMScといったそれぞれの学位に応じて学生の履修の仕方が異なっている。これらの特徴以外にも、教授陣によるコラボレーターの制度、試験実施における学内および学外のチェック制度、数学に対する考え方の違いなど、日本とは異なる点が指摘された。日本と英国の大学における実際の教育経験から、充実した大学入学資格試験制度の導入、また習得レベルに応じたコースの設置などが日本の大学に対する提言として示された。