Activities 社会人大学院のティーチング・ストラテジー 高等教育研究センター 教授
"Think and Act Strategicall"-直訳すれば、「戦略的に考え行動する」である。ひらたく言えば、「競合的な環境で優位に立つように組織の新たな目標をつくり、それに沿って物事を判断し仕事を進める力」ということになろうか。これは日本の企業文化にはすでに定着しているマネジメント・スキルだと言われている。もっとも、金融業界の無責任経営をいやというほど見せつけられている昨今、果たして本当だろうかと疑いの目を向けたくもなるのだが。
さて、名古屋大学の教育発達科学研究科が今年の4月から社会人大学院課程を設け、このほど私もその協力講座教官として委嘱を受けた。そこで、「戦略的に考え行動する」というマネジメント・スキルを社会人大学院生の授業目標に採り入れてみようと考えた。この課程には専攻分野として「高等教育マネジメント分野」が設けられている。そこで、私が担当する「高等教育政策論」と「高等教育経営論」の科目で、このスキルの達成を目指そうと考えた。
平成11年4月に名大の高等教育研究センターの教授として赴任してから1年余、米国、英国、オーストラリア、韓国、中国などの来訪研究員と大学改革の話題について意見交換する機会に恵まれた。また米国を訪問し、企業関係者の意見を聴いたり、ミネソタ大学で改革の方法論を聴取できたのはいい経験だった。
そこで学び得た一応の結論は、世界の大学の現場では、ほぼ例外なく、「戦略的に考え行動する」という経営スタイルと理論をベースにしながら、それぞれの改革が進められているということであった。日本の大学改革は文部省の施策を受けて各大学が動き始めるという構造があり、そこが決定的に違う。日本でこうした改革手法を学ぶには少し時間がかかりそうだが、外国の大学の動きを理解するには、とにもかくにも「戦略的に考え行動する」というマネジメント・スキルの習得は必須であると感じた。この態度は、グローバル化という大きな国際的文脈の変化と呼応して、大学そのものが変容せざるを得なくなっている今日、なおさら重要であることは言うまでもない。
「戦略的に考え行動する」態度は、まず教師たる私自身に不可欠である。ならば、他の社会人にとっても重要なスキルではないか。だったら、一緒に学ぼうではないか、と考えたわけである。そして、体系的に学ぶにはどのような手順が考えられるか、という観点から授業計画(シラバス)を構想・作成した。
4月から7月までの前期、Strategic Planning(ストラテジック・プラニング)に焦点を当てた「高等教育政策論」の授業を終えた。受講者9名に当センターの全教官も加わり、夕方6時15分から2時間の授業を計12回行った。ときには余韻を残して、深夜まで議論が続くことも少なくなかった。授業運営は9名を3チーム編成にし、こちらが毎回提示する課題に全チームが報告する方法を採った。授業は作成したシラバスに沿ってほぼ終えることができた。授業目標の達成度については、受講生によって差はあるが、「戦略的に考えることの大切さを実感してもらった」という水準は、全員が達成できたかと思う。
とくに高等教育マネジメント分野を本専攻とする社会人院生については、認定単位の枠内にとどまらず、さらに高度な目標を設定して、その達成に向けて授業外ゼミナール形式で指導を継続している。社会人学生の真摯な学習意欲を満たすには、このような方法も必要になるように思う。こうした指導システムをカリキュラムの枠内で可能にするには、履修に条件をつけた「上級科目」の設置なども検討したらどうだろうか。
社会人大学院については、どこの大学でも手探り状態で授業方法を模索している最中だと思う。最も「戦略的」で、かつ社会人院生のニーズを最大限に満たすようなカリキュラム・授業のあり方について、本学でも全学規模で意見を交換する必要があるだろう。私の授業に限らず、どこの社会人大学院コースでも、即戦力の技術・専門知識が求められる以上、ストラテジック・プラニングの概念・手法は不可欠である。学生に要求する以前に、まずは教師自身がこれを身につけなければならないのだが、いやはや、これほど難しいことはない。試行錯誤の毎日である。
人事
(前医学部附属病院企画室)
4月1日付でセンター事務官
(前教育発達科学研究科博士後期課程)
8月1日付でセンター助手