名古屋大学 高等教育研究センター

Keynote 高等教育研究センターへの期待 奥野 信宏 副総長

 大学は研究至上主義で、教育を軽視しているという批判をよく耳にする。その背景には、基礎学力が不十分なまま大学に入学し、大学教育についていけない入学者が社会問題になっているという状況や、大学が学生に対し、教養に裏打ちされた社会性を身に付けさせる全人的教育をしていないといった、大学教育に対する社会の不満があるように思う。名古屋大学は、わが国の拠点大学として高等教育・学術研究をリードしてきたが、今日では、大学として取り組まなければならない多くの教育課題にも直面している。

 全学共通教育は、名古屋大学では、専門分野に関係なく全学生が共通に履修しなければならない課程として実施されており、学部の卒業単位の約40%を占めている。平成5年秋に教養部が情報文化学部に改組され、それまでの教養教育は全学共通教育と改められて、四年一貫教育委員会が主管することになった。本年 4月から、実施組織が一部改められ共通教育委員会によって主管されている。名古屋大学の全学共通教育は、他の主要な大学からも評価されており、学生の授業評価をみても定着してきたように思う。しかし、現在の制度に以降して6年が経過し、また大学環境の激しい変化もあり、将来の円滑な実施に向けて仕組みを点検しなければならない時期にさしかかっている。

 本学では共通教育は委員会方式で運営されているが、過去の経緯もあり、これまでは情報文化学部が実質的な責任部局としての役割を担ってきた。しかし、環境学研究科の来年4月の発足が有力になり、それにともなって30数名の情報文化学部教官が新研究科に移籍する計画になっている。新研究科に移ってからも教官の世代交代は年々進むだろうし、共通教育について情報文化学部が実質的な責任部局としての役割を続けることは、急速に困難になると予想される。

 一方、名古屋大学では、全学共通教育は専門教育の一貫として位置付けられているが、各部局においてそうした認識が共有されているかどうかは、極めて疑わしい。近年、大学院重点化が実施され、各部局でカリキュラムの見直しが行われてきた。そこでは、大学院教育と狭い意味での学部専門教育をどのように結び付けるかについては検討されたが、全学共通科目にまでは関心が及んでいなかったように思う。

 こうした状況のなかで、共通教育を将来も委員会方式で続けることができるかどうかについて強い危惧を感じている。現在、組織改革検討委員会第4小委員会で、委員会に替わって共通教育を所管し、専任教官が企画立案や実施についてヘッドクオーターの役割を担う恒常機関の設置に関する議論がなされている。高等教育研究センターには、この問題についての助言を大いに期待しているが、それに限らず、学内の具体的な教育問題についての解決策の提案、将来の大学教育から見た現在の改革課題について、積極的に問題提起していただくことを期待している。