名古屋大学 高等教育研究センター



2019年度名古屋大学学生論文コンテスト

学問のススメ、論文へススメ。

学生生活にスパイスは足りていますか?
授業に出る、レポートを書く、試験勉強をする、
サークルに入る、友達と遊ぶ、本を読む、アルバイトをする・・・
まだまだもの足りない人へ
学問の香りのスパイスを贈ります
――さあ、論文へススメ!


■ 2019年度審査結果

2019年度名古屋大学学生論文コンテストの審査会を、2020年2月10日(月)に開催しました。藤巻朗理事・副総長、戸田山和久教養教育院長、佐久間淳一附属図書館長、北栄輔高等教育研究センター長による厳正な審査の結果、次の論文が選出されました。

受賞論文は、本学の研究成果物として名古屋大学学術機関リポジトリに登録されます。

▼ 優秀賞

新幹線ナタ殺傷事件から辿る現代社会の様相
法学部 天野 大輝さん

▼ 優秀賞(教養教育院長賞)

定年70歳時代の所得における浪人効果
経済学部 李 宗桓さん

▼ 佳作

「律子と貞子」再考-その意義をめぐって
文学部 岩田 海莉さん

▼ 受賞コメント

【天野大輝さん】優秀賞

私がこれまで思索してきた事柄は、「社会の分断と連帯が如何に起こるのか」というテーマに収斂します。分断/連帯という観点から現代社会に目を向けると、それが多くの社会問題と有機的に結びついていることがわかります。この作品では、まず「新幹線ナタ殺傷事件」という、2018年6月に東海道新幹線内で起きた未曽有の殺人事件から無差別殺人事件というものが一般的にはどのように生じるのかを、社会的要因に注目して解明しました。無期懲役の判決を受けた被告が法廷内で万歳三唱を行ったのは記憶に新しいでしょう。ここでは詳しく書きませんが、この事件は特に、人々のあいだの分断という側面が如実に影響していたものでした。

ただ報道では、被告の特性であった自閉症と犯行動機を徒に結び付けたり、新幹線内の警備体制に問題の所以を見出したりと、事実と異なるものや対症療法的な議論が目立ちました。特に自閉症の特性を犯行動機と結びつけるのは、総体的な障害そのものにネガティブなステレオタイプを埋めつける非常に危険なものと危惧しました。

この論文は、現代日本社会の様相を考察し、この社会のどこにその原因があるのか、そしてそれを踏まえてどのような社会的な「受け皿」が必要かを、社会学や生物学、社会心理学、発達心理学などの様々な学問的視点を用いて探っていく、いわば先の見えない試みを実行したものです。そのため、複数の人と対談し多数の文献を読むことで多くの知識を得、その上で考察を行いました。

その中で、「知らない」という事実から生じる傲慢さを身に染みて感じることになりました。人は、任意の事実を知らない限り「知っている」とも「知らなかった」とも言うことが本来はできません。

自閉症の方はよく「環境の変化」へのストレス耐性がないと言われています。ですので、1つの空間が多様な使い方をされたり、1つの行事を日ごとに異なる場や時間で行ったりすると、たちまち疲れてしまうのです。これは自閉症の方に顕著なものとして捉えられるのが世の常です。ですが、自閉症を有さない人間にとっても環境の変化というのは多少のストレスがあるはずです。私自身も昨年4月から一人暮らしを始めるようになったのですが、その当初は、環境の変化に慣れず窮したのを覚えています。このように、「健常者」よりもストレスを感じる感度が高いが故に、自閉症は逆に「障害」と呼ばれるようになってしまうのです。

本来、この事実を「知らない」限り、人によっては自閉症を単なる障害として見過ごし劣視するでしょう。ですが、これを「知る」ことによって自閉症の特性を垣間見ることができると思います。その集積によって、自閉症をはじめとする障害の性質や特徴を知るようになり、それら障害を有する人々の暮らしやすい社会がはじめて築かれるようになるはずです。

私は、この論文で提起した問いに完全に答えられたとは思っていません。犯行までの心理的過程に関する記述の部分においても然りです。この論文を読んだ人々が、新しく知識を取り入れたり、論文の内容における批判点を提起して事実が「更新」されたりするツールとなれば、それ以上のことはありません。自分の行き着いた答えが正しいかを「知れない」からです。

最後になりましたが、この論文を作る上での校閲、添削においてお世話になった友人、教授、CSHEの職員様などすべての方々に心より感謝致しますことを追記し、受賞コメントとさせていただきます。


【李宗桓さん】優秀賞(教養教育院長賞)

この度は、拙稿へ優秀賞という評価をいただき誠にありがとうございます。

昨年もコンテストへ応募しようとしましたが、テーマ決めや資料収集に手間取り、残念ながら未提出に終わってしまいました。今回はそのリベンジを果たすことができたので大変嬉しく思っております。

テーマを決めるきっかけとなったのは、受験勉強の合間に読んでいた小説の「シグナリング理論」という言葉でした。そこから発展して CiNii や J-STAGE、Google Scholar、各種学会のホームページ等から今まで延べ 100 本以上の論文を読んできたことは、今回の執筆に大変役立ちました。 ある百貨店の挑戦」などを活用して、論文執筆に合わせた方法、かつスムーズな情報収集を心掛けました。かつて存在した店の詳細、父の記憶を裏付ける記述なども発見できたものの、さらなる情報のために何時間もかけて京都市の図書館へ通うなど、想定のようにはいきませんでした。論文の執筆自体も体裁がなかなか整わず、募集要項に合わせた形式を満たすのに苦労しました。

しかし、論文をどれだけ読んでいても、「書く」ことは想像以上に困難で、本コンテストは今まで読んでいた論文の重みを知る大変良い機会となりました。私のテーマである浪人生の費用便益分析は基幹となる専攻研究が英語のものしかなく、本文を翻訳することには大変手間取りましたが、テーマ決めから執筆まで何とか一人で成し遂げたことはこれからのゼミや研究活動の糧となる貴重な経験となりました。

今後の大学生活では、論理と知性の牙城へと成長すべく、経済学のみならず社会学や教育学などの様々な分野からアプローチを試み、更に理解を深化させて参ります。

最後になりましたが、学生論文コンテストという素晴らしい機会を提供して下さいました名古屋大学高等教育センター及び教養教育院の方々に厚く御礼申し上げます。


【岩田 海莉さん】佳作

この度はこのような賞をいただき、ありがとうございます。

本論文で取り上げた太宰治は、私が最も好きな作家で、この『律子と貞子』は、おとなしい姉の律子と、快活な妹の貞子、という対照的な二人の女性がいきいきと描かれているところが魅力的な作品です。本論文では、この『律子と貞子』が、当時の社会にとって、どのような意義があったのかを考察しました。

この1年間の学部の講義で、先行論文をはじめとした資料を集め、それらを踏まえて自身の論を展開していく過程を学んできましたが、今回はその経験を活かす良い機会になったと思います。頂いたフィードバックを基に、今後、より質の高い論文を書くことができるよう努力していきます。


事務局から 本年度の応募総数は13本となり、そのうちの3本が入選しました。

▼ 事務局から

本年度の応募総数は13本となり、そのうちの3本が入選しました。


優秀賞を受賞した天野さんの論文は、現代の社会問題に真っ向から挑み、さまざまな要因を1つひとつ丁寧に解説したものでした。込みいった話題が続くにも関わらず一息に読ませる文章であったことにより、様々な学問分野から集まった審査員にも受け入れられたように思います。大きな問題に取り組んだゆえに、新しい結論をみたわけではありませんでしたが、先行文献をもとに複雑な状況を解きほぐして表現できていたことが評価されました。

優秀賞(教養教育院長賞)を受賞した李さんの論文は、着眼の新しさや、破綻のない論理構成などが評価されました。モデルをたてて分析するという手法は、十数年にわたる本コンテストのなかでも珍しく、今後同様の手法を用いた論文を応募する人の参考になるものと思います。

佳作を受賞した岩田さんの論文は、文学作品における先行研究に疑問をもち、論理を組み立てて、反証するに至ったものでした。当該作品を読んだことのない人にも理解できるような文章に仕上がっており、また、爽やかな読後感が印象に残りました。

次年度も学生論文コンテストを開催します。どうぞ奮ってご応募ください。


2019年度の募集は締切りました。ご応募ありがとうございました。

■ 応募要項

▼論文内容

応募論文においてとりあげるテーマ/問いを明確に記述したうえで、文献等を活用して論じてください。内容領域は問いませんが、当該領域を専門としない人にも理解できるよう記述してください。(論文題目例がホームページに記載されていますので、参照してください。)

▼応募期間

2020年1月16日(木)正午まで

▼応募資格

名古屋大学に在学する学部1・2年生

▼応募規定

  • 応募論文は、単著、未発表かつ日本語で書いたものに限ります
  • 審査対象論文は1人1編のみとします
  • 次項「応募方法」に掲載されている書式に従って、論文と応募用紙それぞれの電子ファイル(PDFまたはWord)を作成・提出してください

▼ 応募方法

  1. 論文本編と応募用紙の書式電子ファイル(PDFまたはWord)を当ページからダウンロードしてください
  2. 書式に従って論文と応募用紙を作成してください
  3. 論文本編と応募用紙の電子ファイル(PDFまたはWord)を、件名「2019論文コンテスト応募(応募者名)」で、応募先メールアドレスへ期日内に送信して下さい

▼応募先

E-mail: info@cshe.nagoya-u.ac.jp

▼審査

本学教員による

▼表彰

数名に賞状および協賛機関からの副賞を授与

▼結果発表

  • 2020年2月を予定
  • 発表に際し、入賞者の所属学科および氏名を公表いたします
  • 入賞作品は名古屋大学学術機関リポジトリに掲載いたします

▼その他

  • 論文作成のポイントしては次の資料(PDF)を参考にしてください。
  • 論文の書き方に関する各種文献を中央図書館2階ラーニングコモンズおよび高等教育研究センター(東山キャンパス文系総合館5階)にて閲覧できます
  • 中央図書館2階サポートデスクでは、大学院生スタッフからレポートの書き方の相談を受けられます
  • 過去の入賞論文は名古屋大学学術機関リポジトリに掲載されています
  • 過去の受賞論文タイトル・テーマについては、以下のリンクから確認できます

■ 主催

名古屋大学 高等教育研究センター・教養教育院

■ 共催

名古屋大学 附属図書館

■ 協賛

コクヨマーケティング株式会社

名古屋大学消費生活協同組合

■ 問い合せ先

名古屋大学高等教育研究センター 2019年度名古屋大学学生論文コンテスト事務局

Tel:
052-789-5696
E-mail:
info@cshe.nagoya-u.ac.jp
URL:
https://www.cshe.nagoya-u.ac.jp/ronbun/


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