第58回招聘セミナー オーストラリアにおける大学教育の質保証 −アウトカムをいかに保証するか− 杉本 和弘 氏 鹿児島大学教育センター助教授 2006年 7月24日 (月) 午後4時〜午後5時半 名古屋大学東山キャンパス 文系総合館7階 オープンホール
講演要旨
大学教育の質保証は各国において喫緊の課題である。そのためのアプローチは,入口管理(アドミッション・ポリシー),プロセス管理(カリキュラム・成績評価),教育方法の改善,教職員の資質向上,学生による教育評価,教員評価,出口管理(卒業率・就職率),外部評価,機関間比較など多岐にわたる。そのなかで近年,アウトカム測定による質保証への関心が高まりつつある。オーストラリア高等教育においては,アウトカム重視の取組みとして,卒業後進路調査(GDS),コース経験質問紙調査(CEQ),大卒者技能検定(GSA),大卒者特性(Graduate Attributes: GA)の選定といった複数のアプローチがとられている。 このうちCEQは1993年から実施されている,卒業生を対象とするコース経験の質問紙調査である。CEQには例えば一般技能を問う項目が含まれており,コース受講を通して,問題解決能力,分析能力,チームワーク能力,筆記コミュニケーション等の開発・向上がどれほど図られたかを問うものとなっている。またGSAは,1999年に教育省の委託を受けてオーストラリア教育研究カウンシル(ACER)が開発し,大学生(入学生・卒業生)の?筆記コミュニケーション,?問題解決力,?批判的思考,?対人技能について,選択肢問題(2時間)と筆記試験(1時間)によって測定することを目的としている。しかし参加は任意であり,現在,その有効性や限界,さらには測定対象技能の是非について調査や議論が重ねられているところである。
大卒者特性(GA)は,大学教育のアカウンタビリティを求める声の高まり,大卒者の雇用可能性に対する関心の高まりを背景に,1990年代以降各大学で選定が進んだ。例えば,ウロンゴン大学(UOW)では自らの卒業生が獲得すべき9つの特性を設定しており,独立学習や批判的文責・創造性へのコミットメント(第1特性),チームワークの能力(第4特性)文化的・知的多様性への尊重(第6特性)などが挙げられている。UOWでは,こうした特性を教授するための具体的な教授技術(teaching strategies)を学内8学部から収集してウェブ上で公開している。UOWではさらに,情報リテラシー,学術リテラシー,コンピュータ・リテラシー,統計リテラシー,専門的実践といった「高等教育リテラシー(Tertiary Literacies)」に基づく各種のプログラムを提供している。 GAの選定は各大学で進んでいるが,共通する問題は,それをレトリックに終わらせない工夫,つまりいかに実際の教育改善につなげるかという点である。先のUOWでは,GAの選定を,新プログラムの開発・導入,カリキュラムへのGAの統合,GAのための教授法の開発・普及につなげる取組みが進められつつある。GAをめぐる取組みの成否は,それがいかに実際の教育改善の推進や教育重視の文化の育成に結実し得るかにかかっている。
開催案内
第58回招聘セミナー
オーストラリアにおける大学教育の質保証
−アウトカムをいかに保証するか−
杉本 和弘 氏
(鹿児島大学教育センター助教授)
日時:2006年 7月24日 (月) 午後4時〜午後5時半
場所:名古屋大学東山キャンパス 文系総合館7階 オープンホール
講演概要
大学教育の質保証には多元的なアプローチが必要である。一般に,入学基準の設定,カリキュラムの策定・改善,厳格な成績評価,学生による授業評価,教員の資質向上といったさまざまなツールが複合的に用いられる。オーストラリアでは近年,そうした教育の質保証の一環として,‘graduate qualities’や‘graduate attributes’を設定することで自らの卒業生の質を担保しようとする試みが注目されている。今回の発表では,そうしたオーストラリア大学の取組みを紹介し,アウトカムに焦点化した大学教育の質保証のあり方について考える。
言語:日本語
お問い合わせ: 近田 <chikada@cshe.nagoya-u.ac.jp> (tel:052-789-5692)
※セミナーに出席を希望される方は、セミナー当日までにseminar@cshe.nagoya-u.ac.jp宛へご連絡下さい。(準備等の都合のためであり、必須ではありません。)セミナーは研究者、教育関係者、教育機関の事務担当者、学生(大学院生・研究生・学部生)、社会人など多くの方の参加を歓迎しております。また、セミナー開催情報メールサービスも是非ご利用下さい。