第37回客員教授セミナー ラーニング・アウトカムズの観点からカリキュラムを考える 川嶋 太津夫 氏 神戸大学大学教育推進機構 7月26日(木)18時15分〜20時00分 名古屋大学文系総合館7階 オープンホール
講演要旨
益々大学の多様化が進んでいる。学士号が示す「分野」は580を数えるという。学生の学習ニーズに対応した結果とはいえ、我が国に(多分世界でも)1つしかない学士課程教育の分野も多々存在する。しかし、学士は世界共通の「学位academic degree」である。そこで、学位の同等性や国際的通用性を保障するために、欧州ではボローニャ・プロセスを中心に、学士、修士、博士、それぞれの学位の性格を、ラーニング・アウトカムズの観点から定義しようとする取組が進んでいる。また、高等教育の質を保証し、高等教育機関へのアカウンタビリティへの要望に応えるためにも、いわゆる「出口管理」の強化が求められており、大学が、その学生が卒業時に「何が身につくのか」「何ができるようになるのか」、すなわちラーニング・アウトカムズを明確にし、それを保障することが強く求められている。
ラーニング・アウトカムズとは、学習者が、ある学習プログラムの修了時に知っているknow、また、できるbe able to do、あるいは示すことdemonstrateが期待される内容を明らかにしたものであり、ふつう、アウトカムズは、知識、スキル、態度として表現される。また、ラーニング・アウトカムズは、「動詞」で表現され、観察可能で、またその達成が測定可能なものとして設定されなければならない。たとえば、アメリカのミルウォーキー市にあるアルバーノ・カレッジでは、学士課程のラーニング・アウトカムズとして、communication, analysis, problem solving, valuing in decision-making, social interaction, developing a global perspective, effective citizenship, aesthetic engagementの8つの能力をかかげている。
従来、大学のカリキュラムは、教員が中心となって、「何を教えたいのか」という教員の「目的aims」を基に編成され、いかにそれを学生に伝えるか、つまり「教授」が重視されてきた。しかし、ラーニング・アウトカムズは、学生が「学習」して獲得するものであり、学生中心のパラダイムである。したがって、ラーニング・アウトカムズの観点からカリキュラムを編成するためには、まず(1)大学、続いてプログラム、学科、科目の順で、知識、スキル、能力、態度について修了時に獲得を期待するアウトカムズを特定する。(2)アウトカムズを学生が習得できるように授業科目を配置する。(3)学生がアウトカムズを達成できているかどうかをアセスメントする。(4)アセスメントの結果に応じて学生にフィードバックしたり、カリキュラムを修正したりする、といった手順が必要である。
このように、ラーニング・アウトカムズからカリキュラムを編成することにより、常に教育の改善が図られると同時に、カリキュラム・マップの作成作業を通じて、教員集団による組織的な教育への取組が可能となるといった長所がある。他方で余りにも合理的で、緻密であるため、教員や学生の個性や創造性を押しつぶしてしまうという批判もある。しかしながら、我が国の学士課程教育の国際的通用性を担保し、教育の質の説明責任を果たすためにも、今後、我が国でも、国レベルで、そしてそれぞれの機関でもラーニング・アウトカムズを重視した教育改革の推進が望まれる。
開催案内
第37回客員教授セミナー
ラーニング・アウトカムズの観点からカリキュラムを考える
川嶋 太津夫 氏
神戸大学大学教育推進機構
日時: 7月26日(木)18時15分〜20時00分
場所: 名古屋大学文系総合館7階 オープンホール
講演概要
最近、我が国でも「学士」学位が証明する能力は何かという議論が始まっている。また、中央教育審議会の答申では、学位授与の条件を「ディプロマ・ポリシー」として明確化するように大学に求めている。国際的に見ても、高等教育の質の保証やアカウンタビリティの観点から、大学が卒業時に学生が習得すべきラーニング・アウトカムズを明確にし、その達成度を査定(アセスメント)することを政府や第三者評価機関が求め始めている。
そこで、今回のセミナーでは、アウトカムズ志向の高等教育改革の動向と、それがカリキュラム編成に持つ意味を検討してみたい。
お問い合わせ: 夏目 <natsume@cshe.nagoya-u.ac.jp> (tel:052-789-5693)
※セミナーに出席を希望される方は、セミナー当日までにseminar@cshe.nagoya-u.ac.jp宛へご連絡下さい。(準備等の都合のためであり、必須ではありません。)セミナーは研究者、教育関係者、教育機関の事務担当者、学生(大学院生・研究生・学部生)、社会人など多くの方の参加を歓迎しております。また、セミナー開催情報メールサービスも是非ご利用下さい。