第70回招聘セミナー 大学教育における哲学者の役割 徳永 哲也 氏 長野大学 環境ツーリズム学部 教授 2008年5月30日(金) 16時30分〜18時30分 名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール
講演要旨
日本の大学ではここ十数年、哲学をはじめとする教養の教育が軽視され弱体化している観がある。いわゆる教養部解体や専門教育への傾斜の中で、しかも大学が「ユニバーサル化」し「学力の多様化」も見られる中で、哲学者は、何ができるだろうか。
第一に、今の時代に哲学や倫理学をどう関心を持てるように教えるか、という課題を考える。一昔前と違って、「小難しそうで役立たなさそうな」哲学を学んでみようと学生たちに思わせるには工夫がいる。例えば哲学史を教えるなら、昔の話の暗記物と感じさせないことである。現代的視点から考察し、「今日の私たちにも参考になる」と思わせることである。そのうえで「今の自分に当てはめると・・・」といったレポート執筆につなげれば、関心の持てる哲学史の学びになりうる。現代社会をテーマとした哲学や、昨今の応用倫理学ならば、必然的に今日的関心事となるが、これも「議論好きな人たちだけの話題」と思わせては意味がない。「自分ならどうするか」と考えさせる機会を持たせる仕掛けを作ろう。
第二に、大学の専門教育との関係で哲学的思考にどう目を向けさせるか、という課題を考える。一般的に述べれば、上記の「現代的視点」「今の自分なら」という意識に常々問いかけて関連科目とのつながりを考えさせる、ということになる。うまくいけば、1年次に応用倫理学だけを取った学生が4年次になって哲学的思考の重要性を再認識して哲学史を取りにくる、といったケースも出てくる。また、私独自の企てとしては、「福祉哲学」という社会福祉学部向けの専門基幹科目の立ち上げが、「専門に斬り込む哲学的思考」の事例になる。「私のこの授業は社会福祉士国家試験には役立ちません。むしろ、受験に疑問を持ってもらうための授業です」「だから試験は受けるな、資格は取るな、とは言いません。ただ、この授業から資格の権威性などの問題に気づいた人が資格者になるのか、そんな問題に無自覚な資格者ばかりが増えるのかによって、福祉社会の姿は大きく変わります」---こんな言葉を投げかけて、福祉学を学ぶ意味を内省させようとしている。
第三に、哲学が、哲学者が、諸学問や教育総体の統合的な役割を果たせるか、という課題を考える。基礎リテラシーのための1年生ゼミに哲学者が駆り出される例は多いし、きちんとやれば「資料読解→批判的考察→推論と表現」のモデルを提示する役目を果たせるだろう。私自身はこうした1年生ゼミのほか、1年生向けの入門講座や、上級生向けの総合科目を率先して請け負い、「諸学問のαであり、ωであるのはやはり哲学だ」というメッセージを発し続けている。「哲学者は諸学のコーディネーターであれ」と呼びかけたい。
開催案内
第70回招聘セミナー
講演題目:大学教育における哲学者の役割
徳永 哲也 氏 (長野大学 環境ツーリズム学部 教授)
日時: 2008年5月30日(金) 16時30分〜18時30分
場所: 名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール
講演概要
大学に哲学者、哲学教育が存在することについて、大抵の人は「必要だね」「大切だね」と言ってくれるものの、その存在意義は揺れている。「大綱化」のあと哲学教育が縮小されたとか、「哲学科」は「人間関係学科」などに衣替えしないと存続できないといった見方は根強い。他方、リベラルアーツが見直され、哲学の復権かという動きもある。今般、提題者を引き受けるに当たって、3つの課題を考えている。第1に、今の時代に哲学や倫理学をどう関心を持てるように教えるか。第2に、各大学の専門教育との関係で哲学的思考にどう目を向けさせるか。第3に、哲学(哲学者)が諸学問や教育総体の統合的な役割を果たせるか。これらに少しでも手がかりを与える提起ができればと考えている。
プログラム
- 16時30分〜17時00分
- ミニセミナー「アメリカ哲学会の教育への取り組み」久保田祐歌氏(高等教育研究センター研究員)
- 17時00分〜18時30分
- 招聘セミナー「大学教育における哲学者の役割」徳永哲也氏(長野大学環境ツーリズム学部教授)
お問い合わせ
中井俊樹 <info@cshe.nagoya-u.ac.jp> (tel:052-789-5385)