第81回招聘セミナー どのようなクリティカルシンキングを学生に身につけさせるか STSの観点から 伊勢田 哲治 氏 京都大学大学院准教授 2009年7月17日(金)16:00〜18:00 東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール
講演要旨
議論を吟味するための思考のスキルであるクリティカルシンキングの教育は、初等論理学の授業として米国で導入されたのが始まりである。 日本でも、学生が論理的思考力を身につけるのが望ましいという一般的了解はあるものの、クリティカルシンキングを教える際、純粋にスキルのみを教える授業がカリキュラムとして成り立つかという問題がある。 純粋にスキルをのみを教えることが難しい場合は、何らかのコンテンツと組み合わせて教えることができる。 その候補として、科学技術社会論(Science, Technology and Society、以下STSと略)を挙げたい。
STSとは、科学技術と社会との関係について研究・教育・実践する分野である。 STSの観点からは、社会問題を解決する際、狭い意味での科学的知識では不十分であり、科学技術の意思決定については市民参加型が望ましいと見なされる。 そのため、正しい判断ができないのは、一般人に科学の知識が欠けているからであり、正しい知識を身につけさせることこそが重要であるという考え方は「欠如モデル」として批判の対象となる。 STSにおいて、科学と市民の関係が批判的に再検討される際には、もちろん批判的な思考スキルが用いられている。 実はクリティカルシンキングそのものが、科学コミュニケーションという性質をもつので、STSと内容的にも融合したSTS融合型クリティカルシンキング教育が可能である。 しかし、従来のクリティカルシンキング教育は欠如モデル的であるという問題を抱えている。
まずSTSの観点からは、どのような教育が可能なのか。クリティカルシンキング的なスキルのうち、何を重点的に教えるべきか。 STSでは、たとえばGM作物をめぐる議論において、「健全な科学原則」と「事前警戒原則」の比較がなされる際、クリティカルシンキングのスキルが関わっている。 対照実験などの、実験の方法論についての知識や、議論の特定、思いやりの原理が必要であるし、三段論法や確証バイアスについての知識も要される。 こうしたクリティカルシンキングの知識やスキルについての教育を「健全な科学」対「事前警戒原則」という対立についての教育と融合できるのではないか。
通常、学校教育は欠如モデル型であるが、STSそのものについての教育を欠如モデル的に行うのは自己を否定することになりかねない。 そこで、従来のクリティカルシンキング教育を変容する必要がある。 論理的な推論や思考スキルなどの基礎的な内容については欠如モデルが適切だが、それを議論の題材としたディスカッションを授業で行い、成績評価は客観テスト以外の方法をとるといった、双方向型のクリティカルシンキング教育を目指すことができる。 STS融合型クリティカルシンキング教育は、STSとクリティカルシンキングの両方の短所を補い合うような形で構成できるのである。
開催案内
第81回招聘セミナー
- 講演題目
- どのようなクリティカルシンキングを学生に身につけさせるか
- ―STSの観点から
- 講演者
- 伊勢田 哲治 氏(京都大学大学院准教授)
- 日時
- 2009年7月17日(金)16:00〜18:00
- 場所
- 東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール
講演概要
学士課程の学生が身につけるべきスキルの一つとしての、クリティカルシンキングの養成は、学問分野別の授業や概論等の多様な授業によって行われている。 学部学生に対して、実際に15回の授業でこのようなスキルを教授する際、どのような方法がより効果的なのであろうか。 今回の講演では、STS(科学技術社会論)の観点を取り入れることでどのようなクリティカルシンキング教育が可能になるかを考察する。 また、どのような習得目標をかかげ、どのようなテストによってその習得を判断すべきかについても考察する。
- お問合せ先
- 久保田祐歌
- info@cshe.nagoya-u.ac.jp
- Tel:052-789-5696
- ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。