第52回客員教授セミナー 大学教職員の専門性開発(PD)と課題 ―研究・開発・実践― 羽田 貴史 氏 東北大学高等教育開発推進センター教授 2010年7月27日(火) 14:00〜16:00 東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール
講演要旨
大学教員の専門性開発(Professional Development: PD)は,高等教育において最大の課題だが,組織的実践的に進める上で多くの研究的課題がある。大学教員は,学生処分やハラスメントへの対処などの様々な危機に向かい合わねばならない産学連携が進み,業績へのプレッシャーが増加すると,利益相反や研究倫理についても明確な行動規範を身につけなければならない。要するに単なる授業者ではなく,研究・教育・管理運営・組織内共同,さらには青年を一人前の市民に育てる教師として,家庭や地域社会の一員としての役割も意識しなければならない。
これらの役割や能力は,入職後,職階や年齢によってキャリア・ステージが変化することによっても変わっていく。大学のPDプログラムは,キャリア開発研究の成果もふまえつつ,教員の能力発達の課題を明確にして組み立てられる必要がある。大学教員の専門性は,教員個人だけでなく,組織の視点も含んで組み立てられる複層的なものである。今まで,①大学教員自身の能力観と成長プロセスの把握(1999広島大学教員調査,2008東北大学教員調査など実施),②組織目標・機能から求められる役割期待(2007大学の組織変化に関する学長・部局長・学科長調査実施),③教育・研究活動から求められる能力(1995リメディア調査,2009東北大学院生調査)の3つのレベルの調査に取り組んできたが,そこから言えることは,日本の大学教員の教育能力は平均して入職後8年,38歳頃に獲得したと自覚されているが,獲得要因やプロセスは曖昧で,日常的な教育研究経験で「一人前になった」と考えているに過ぎない。このプロセスをより自覚的に進める支援策が必要である。特に,有効なPD活動は,ステージによって異なり,入職後5年以内の教員は,「指導助言」への期待が高く,10年以上の教員は「サバティカル」への期待が高い。PD活動にとってメンター教員の育成が大きな課題である。
また,80年代から進められてきた研究者・技術者のキャリア開発研究では,組織コミットメントを強めるOJT活動は,専門研究者にとって有効ではなく,かえって移動を高めたりするので,プロフェッショナル・コミットメントを高める活動が必要とされる。多くの大学で行われるPD活動は組織の理念を共有するなど組織コミットメント型であり,今後を考える上で示唆的である。
大学の組織目標との関係では,大学の機能的分化に即して各大学の部局長・学科長が意識している目標にかかわらず,教員採用で重視しているのは,研究能力である。その理由には,研究能力が,社会サービスや世界的研究拠点など多様な組織の方向に対応しうる普遍的な能力を考えられていると思われる。初期キャリアにおいて教育能力を育てることは重要だが,生涯を通じて大学教員として働くために,高いアカデミック・スタンダードを内面化した研究者を育てることも,大学のPD活動の中核に据えなければならない。
開催案内
第52回客員教授セミナー
- 講演題目
- 大学教職員の専門性開発(PD)と課題 ―研究・開発・実践―
- 講演者
- 羽田 貴史 氏
- (東北大学高等教育開発推進センター教授)
- 日時
- 2010年7月27日(火) 14:00〜16:00
- 場所
- 東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール
講演概要
大学教職員の専門性開発(FDとSDとを統合した概念としてProfessional Development)は,高等教育において研究と実践の双方にまたがる重要な領域になっており,実践をリードする研究の深化が必要である。特に,PDは個人・学科・機関・システムの各レベルに関わり,大学と個人の視点に立った戦略化が求められる。この点を,海外の研究動向にも触れながら,日本の大学での研究・開発・実践課題を報告してみたい。
- お問合せ先
- 伊藤 奈賀子
- info@cshe.nagoya-u.ac.jp
- Tel:052-789-5696
- ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。