第55回客員教授セミナー 大学院教育と研究者養成 ―日米比較の視点から― 福留 東土 氏 広島大学高等教育研究開発センター准教授 2011年1月27日(木) 16:00〜18:00 名古屋大学東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール
講演要旨
セミナーでは、まず大学院教育に関する日本の現状と課題を示し、各観点についてアメリカとの比較を行った。日本での最大の課題は、課程制大学院としての実質化であり、そこには教育プログラムとしての構築と円滑な学位授与という二側面がある。前者については全般的に取組の不十分さが指摘される一方、一部で急速な改革が進みつつあるとみられる。後者については、博士号に対する認識が近年急速に変化し、課程博士が急増している。しかし一部分野では学位取得率が低く、また学位取得年数には分野間で差がみられる。また、日本では博士修了者の産業界での評価が課題である。分野によっては修了者のうち大学外に雇用される比率は低くないが、それが積極的受入を意味するのか、修了者の処遇が妥当なのか、今後さらに実態の検討を要する。
アメリカの大学院は幅広いコースワークを前提とする体系的構造を持ち、国際比較調査の結果でもそのことが如実に示される。ただし、学位取得年数は日本の課程博士よりも長く、分野間の差も大きい。日本での議論でもこうした実態を念頭に置いておく必要がある。産業界の修了者受入も多く、給与データを学位別に比較すると博士修了者の高さが示されるが、学士・修士は規模が大きく多様であるため、この点についてもさらに検討の余地がある。
大学院プログラムの組み方について、日本では短期での修士論文執筆がコースワークの足枷となっている面がある。修論に代えてコースワークに基づく試験により修士修了を認めるアメリカ型の方向性を目指す動きもある。一方、日本では修論が研究能力の判定材料として重要であり、修論とコースワークのバランスと繋がりが問われる。
アメリカの大学院教育を支える条件として、B・クラークは、多角的な外部資金と大規模な学士課程の存在が大学院運営に資金的基盤を与えていること等を挙げている。後者については、大学院生をTAとして雇用し、教員の教育負担を軽減させつつ、きめ細かい教育を実現するための資源として活用することが鍵となる。やり方によっては、TAは教育の質を低下させる原因となるため、育成プログラムの充実が重要である。TA制度は、院生の経済的支援と教育能力の養成、学士課程教育の充実という3機能の輪を形成する位置にある。日本では経済的支援の手段とはなりにくく、その有効な運用は難しいが、TA経験がアカデミックな能力形成に寄与する工夫を行う等、前向きな形で位置付けることが必要である。
開催案内
第55回客員教授セミナー
- 講演題目
- 大学院教育と研究者養成
- ―日米比較の視点から―
- 講演者
- 福留 東土 氏
- (広島大学高等教育研究開発センター准教授)
- 日時
- 2011年1月27日(木) 16:00〜18:00
- 場所
- 名古屋大学東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール
講演概要
日本の大学院教育と研究者養成は様々な課題を抱えながら新たな展開を図る変革の途上にある。その中でアメリカの大学院は常に日本のモデルであり続けている。本セミナーでは、大学院のカリキュラム、学位取得のプロセス、修了後の進路などに着目しながら大学院教育システムについて日米比較の観点から考察する。また、TA(Teaching Assistant)やPFF(Preparing Future Faculty)など大学教員としての能力育成システムにも触れる。以上を通して、大学における教育と研究の関係、および大学院教育を通した研究者養成のあり方を捉え直してみたい。
- お問合せ先
- 西原 志保
- info@cshe.nagoya-u.ac.jp
- Tel:052-789-5814
- ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。