第96回招聘セミナー 教養教育を中心とした学部は創れないのか ―科学教養を21世紀の教養教育に― 黒田 光太郎 氏 名城大学教授 2011年4月19日(火)16:00〜18:00 東山キャンパス 文系総合館7階オープンホール
講演要旨
名城大学で進められた科学教養をベースとするリベラルアーツ系新学部構想の発足から頓挫に至るまでの経緯を振り返り、それを手がかりに、21世紀における教養教育のあり方について検討した。この構想の実現に当事者として参画した立場からの発言である。
科学教養の涵養を目指す「科学コミュニケーション学部(仮称)」設立に向けて、同大では2008年から準備が始まった。目標とする科学教養は、旧来型の人文科学系中心の教養教育ではく、自然科学の素養をベースにしている。IT化・情報化の進んだ現代社会で、自然科学の素養が必要とされていることをふまえた。教養教育の見直し、全学教育の再編を企図した当時の名城大学学長要請に基づいて着手された。
教育理念は、「自然と人間と対話する科学の教養を身につけて広く社会に貢献する21世紀型市民を育成する」ことである。(1)自然と人間(社会)を包括する科学知、(2)言語コミュニケーションとしての英語力、(3)非言語コミュニケーション力としてのビジュアル表現力、の養成を柱とした。1・2年次の全学共通教育部門ならびに学部統合部門、3・4年次の各専門科目部門(5部門)により構成される。
2007年11月に設立された「新学部等開設準備室」(室長:教育担当副学長)が基本設計を担当し、2010年4月の開設に向けて、学長らは2009年1月から3月にかけて各学部教授会に対して説明を行った。一方、この時期に教授会声明という形で、3学部から反対意思が表明された。5月には文科省への事前相談の結果を受けて、開設を2011年4月に延期し、設置認可による設置に変更して、開設準備の審議を重ねた。10月には8回にわたり学長による新学部説明会が実地され、理解活動につとめたが、11月に開催された教学部門の意志決定機関である大学協議会で承認を得るには至らなかった。
2010年7月の理事会で行われた新学部経過報告では、不承認の理由として、以下の2点があげられている。a)企画・立案・設計などの各段階で大学協議会における審議・承認を経なかった、という手続き的な問題、b)リベラルアーツに対する解釈の違い、新学部のコンセプトやカリキュラムに対する理解や共感の不足、など構想内容に関わる問題、である。とくに問題とされたのは、学内人材の活用を念頭に置いた5部門構成などである。
不承認の理由とされた二点は、名城大学が持つ歴史・伝統とも深く関わっている。同大では、学長・法人サイドによるトップダウンではなく大学協議会の決定が重視される学内情勢があった。教養部が元々なく、教養教育に対する認識や理解が共有されていないという事情もあった。後者の点に関しては、同大では、全学共通教育体制発足6年を経過した現在でも未だ2学部が参入せず、全学生の約半数が参与できていない。新学部構想が全学教育再編の要と位置づけられたこともあり、全学共通教育への十分な理解が得られていないことは逆風となった。構想内容に対する疑義に応える形で、5部門を2部門に縮小し、学部コンセプトを明確にした新学部「科学教養部」構想を準備したが、学内審議に至らなかった。
質疑応答の中で、構想について以下の点を補足した。?科学教養に関する幅広い知識を教育することは、有為な人材育成につながる。?科学教養が進路選択に幅を広げる点を重視し、十分な科学教養の習得を促すカリキュラムを構想した。?学部教育重視で大学院を設置しないこととした。?英語教育を強化し他大学・他研究科への大学院進学に対応できるようにした。?中部地区における理科教師養成拠点の一つとすることを目指した。
開催案内
第96回招聘セミナー
- 講演題目
- 教養教育を中心とした学部は創れないのか
- ―科学教養を21世紀の教養教育に―
- 講演者
- 黒田 光太郎 氏
- (名城大学教授)
- 日時
- 2011年4月19日(火)16:00〜18:00
- 場所
- 東山キャンパス 文系総合館7階オープンホール
講演概要
大学大綱化以降、教養部が解体され、教養教育の壊滅的状況の見直しが必要だと認識されている。しかし、その動きは全国的に鈍い。報告者は、「教養教育をベースとした新学部の創設に協力して欲しい。また新学部は全学教育の再編の中心にもしたい。」という要請に応えて、科学教養をベースにした新学部構想を進めてきた。しかし、その構想は実現できなかった。新学部構想の具体的内容、創設挫折後の総括などから、教養教育の重要性と困難性を検討したい。このことは21世紀における教養教育とは何かを考える手がかりになるであろう。
- お問合せ先
- 東 望歩
- info@cshe.nagoya-u.ac.jp
- Tel:052-789-5814
- ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。