第102回招聘セミナー 政策におけるエビデンスの活用 ―ポストドクターに関する調査研究の事例から― 岩崎 久美子 氏 国立教育政策研究所・総括研究官 2011年10月21日(金)16:00〜18:00 東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール
講演要旨
1990年代後半から、予算獲得、政策立案、説明責任、政策評価の根拠として、研究成果の活用をエビデンスという言葉で検討する動きが英国や米国で見られている。ここでは、平成18−19年度国立教育政策研究所と日本物理学会との共同研究で行われたポストドクター(PD)に関する調査研究(PD調査)を事例に、エビデンスの産出、普及、活用について検討する。
1.エビデンスの産出
PD調査は、教育財政、労働心理、素粒子物理などの研究者や臨床心理士といった学際的な集団から構成され、1.面接調査(n=51)、2.他分野進出事例調査(n=9)、日本物理学会会員ウェッブ調査(n=1,667)の3つの調査に基づく多角的アプローチに依拠した。結果、需給予測によるPDへの将来の見通しの提示、年齢別のキャリア支援のニーズの特定を提言した。
2.エビデンスの普及
研究成果の普及には、大きく3つの方法をとった。第一に、紙媒体として、報告書(3冊)、パンフレット、書籍(『ポストドクター問題』)を刊行した。学会誌や新聞社2社から書評が出されたこともあり、書籍が社会的には一番注目された。第二に、政策立案者への働きかけを行った。官庁該当部署へのレクチャーや、外部評価委員会などで成果と提言を伝えた。第三に、社会的影響力のある人物を活用した。日本物理学会会長(当時)による共同研究への参画、さらに、2008年に素粒子・原子核領域からのノーベル賞受賞者(3名)が出て、その中のひとりによる書籍(『ポストドクター問題』)の帯文への協力は有効であった。
3.エビデンスの活用
研究成果は、議員や内閣府からの資料請求や、教育以外の学会、企業人事担当者、新聞社やシンクタンクから内容照会があった。その成果は、統計資料としての活用、国会質問での利用や、書籍による社会的啓発を経て、高等教育人材政策の議論へ影響し、政策研究へのさらなる発展が見られた。
このように、PD調査でのエビデンスの産出、普及、活用を振り返ると、政策科学を志向した研究の活用は複雑で、必ずしも政策に直線的に活用されるわけではない。ウェイス(Weiss, C.H.)が研究活用モデルを分類しているように、研究が政治的立場の支持や口実として利用される場合も多い。実際には、問題解決を目指す研究成果の政策活用のためには、多様なアクター、そして研究と政策をつなぐ政策ブローカーなどの知識媒介者が必要なのである。
開催案内
第102回招聘セミナー
- 講演題目
- 政策におけるエビデンスの活用
- ―ポストドクターに関する調査研究の事例から―
- 講演者
- 岩崎 久美子 氏
- (国立教育政策研究所・総括研究官)
- 日時
- 2011年10月21日(金)16:00〜18:00
- 場所
- 東山キャンパス 文系総合館総合館7Fオープンホール
講演概要
ポストドクター(PD)に関する調査研究は、どのように政策に活用され、かつ社会的なインパクトを与えたのだろうか。
政策の根拠となる研究(エビデンス)には、つくる(研究成果の産出)、つたえる(研究成果の伝達)、つかう(政策での活用)の3つの段階がある。国立教育政策究所のプロジェクトとして行われたPDの調査研究を事例に、研究成果としてのエビンスの政策活用プロセスとそのアウトカムについて検討する。
- お問合せ先
- 東 望歩
- info@cshe.nagoya-u.ac.jp
- Tel:052-789-5814
- ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。