第103回招聘セミナー
失敗事例・成功事例を通した
教務系職員育成のあり方
村瀬 隆彦 氏
佐賀大学学務部長
2011年11月2日(水)18:30〜20:00
東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール
講演要旨
はじめに大学教育の質の保証が求められ、大学教育の改革が喫緊の課題とされる中、それを支える教務系の人材育成が不十分ではないかと危惧されている。国立大学においては、元々学生に関わる業務を軽視してきたことが、その理由の一つであると考えられる。また、教務関係の的確なテキストが少ないことが人材育成の支障の大きな理由の一つであろう。
本日は、教務系職員の職能開発に資するテキスト作成に関して、教務の現場における失敗事例・成功事例を振り返ることを提唱したい。そこからは学ぶべき多くのことが見えてくる。それは、教務系職員向けのSD教材の宝庫と言えるだろう。
1 KKD(カンと経験と度胸)
教務を含む学生系の業務は、過去においては、「カンと経験と度胸で対応すべし」と言われていた。(これを私は、「KKD」と呼ぶ。)しかし、新たな課題に追われる今日では、KKDでは業務に対応できない。
一方で、教育に関する法規を読んでいるだけでは教務系職員は育たない。一定の経験を土台として関連法規を学ぶとともに、感性(センス)を磨き、論理的な態度と判断力を身に付けることが必要であろう。つまり、KKD+αが必要であり、新たにKKL(経験K、考えることK、感性K、論理性Logical)を提唱したい。
そのためにも、過去の幾多の事例や現在も現場で起こっている幾多の事例に学ぶことが必要であると考える。
2 失敗事例・成功事例の紹介
最初に、これまでに体験した失敗事例を紹介したい。
①教育職員免許法と齟齬のある大学内規を運用していたために起こった教育職員免許状資格認定に係る過誤
②オムニバス方式授業科目の成績統合システムにミスがあったために起こった成績認定に係る過誤
③教務情報システム運用に問題があったために、在学期間を超過した学生に係る過誤
④学生の死亡除籍対応に係る失敗例
次に、成功事例を紹介する。
①推薦入試の日時とラグビー全国大会決勝の日時が重なったために実施した特例入試
②職員が企画・立案に参加した、学生支援に関する新たな取組
③教務系職員によるSD・FDプログラムの開発
3 失敗事例・成功事例から見えてくるもの
失敗事例・成功事例を俯瞰し、検証してみると次のような共通の課題が見えてくる。
1つ目は、当然のことではあるが、教育関連法規をある程度理解することが必要不可欠であるという点。しかも、単なる逐条解釈ではない実践的な理解が必要である。失敗事例は、法規を学ぶ切っ掛けになるだろう。
2つ目は、教務の現場では、「学生の視点」「社会の視点」を持っていないと思わぬ事態を招きかねないという点。具体の成功・失敗事例から学びたい。
3つ目は、情報システム過信のために起こるトラブル。これは、失敗事例が警鐘を鳴らしている。システムをチェックする思考を持ちたい。
4つ目は、教職協働の必要性。「職員のパワー(1)」 + 「教員のパワー(1)」=2未満という大学が多いのではないか。1+1=3以上というような大学でなければならない。これは、教職協働の成功事例から学びたい。
5つ目は、前例踏襲の打破という点。前例踏襲型の対応では立ち行かなくなってきている。前例踏襲による失敗事例、その反対の成功事例を知ってほしい。
6つ目は、教務の嗅覚が必要という点。業務遂行のためには、センス(「気」)が必要である。教務の嗅覚を身に付けることは、他のセクションでも役立つセンスにも繋がる。これは、経験を積むことが第一ではあるが、失敗・成功事例を擬似体験してほしい。
7つ目は、危機管理を想定するという点。教務に関するトラブルは、大学に大きな打撃を与える場合がある。これは、失敗事例から学びたい。未然の事故防止及び事故後の的確な対応が、自らも大学をも救う。
4 失敗事例・成功事例を通した職員育成
以上のとおり、失敗事例・成功事例を検証すると、そこから学ぶべきことが多いことに改めて気付かされる。過去の事例に学ぶべきであることは、教務の分野に限ったことではない。しかし、会計や庶務の分野には学ぶべき多くの法規や手引き(マニュアル類)が存在するのに対して、教務の分野ではそのようなテキスト類が少ないのが現状である。この点に関して、昨年度、名古屋SD研究会が作成した「教務のQ&A」は、教務の実践的な場面に基づいて教務の知識や考え方が述べられており、一つの指針となったと考えている。
教務の現場では、思いもよらない事態、法規には解決策が書かれていないトラブル、正解のない課題が少なくない。また、最初に述べたように、大学教育の改革は喫緊の課題であり、それを支えるための教務に精通した人材が求められている。
教務系職員の育成には一定の経験と研鑽が必要ではあるが、失敗事例・成功事例を学び、過去の経験を擬似体験した上で自ら考えさせることが、人材育成の早道ではないだろうか。そのために、先達の貴重な体験や日々教務の現場で生じている出来事を事例集としたテキストの作成を提案したい。
そのテキストは、従来の業務マニュアル(○月にはこれを準備し、○月の教務委員会には△△を諮る等を纏めたもの)とは異なり、自ら考える切っ掛けを与えるものであること、また、そのような事例を集めたり、記したりすることは、教育の研究者ではなく事務職員自らの役割であることを付け加えておきたい。
開催案内
第103回招聘セミナー
- 講演題目
- 失敗事例・成功事例を通した教務系職員育成のあり方
- 講演者
- 村瀬 隆彦 氏
- (佐賀大学学務部長)
- 日時
- 2011年11月2日(水)18:30〜20:00
- 場所
- 東山キャンパス 文系総合館総合館7Fオープンホール
講演概要
「学士課程答申」の指摘を待つまでもなく、大学職員には複数領域での幅広い知見と特定分野での高い専門性を併せ持つことが求められている。本セミナーでは、教務系職員に焦点を当て、教務の現場で日常的に発生する種々の課題への対応(失敗事例・成功事例)の経験を共有することを通して、職員育成のあり方を考察してみたい。教育改革の最前線に立つ教務系職員の職能開発の一助になれば幸甚である。
- お問合せ先
- 中井 俊樹
- info@cshe.nagoya-u.ac.jp
- Tel:052-789-5814
- ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。