名古屋大学 高等教育研究センター

第61回客員セミナー 「大学のナレッジマネージメント― IRからKMへ」 松塚 ゆかり 氏 一橋大学大学教育研究開発センター・教授 2012年7月26日(木)16:00〜18:00 東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール

■ 講演要旨

学生ニーズの多様化、質保証の要請、競争の激化、予算削減への対応が迫られる中、大学は教育・研究・組織運営において自らの特徴や資源および市場を的確に把握することが求められている。これを可能とするのが大学機関調査(IR)であり、本講演ではIRの具体的活動、体制、スキルミックスを紹介し、その発展的展開として、学内外の「知」を集約・共有し、教育改善、研究強化、組織改革へとつなげるとされるナレッジマネージメント(KM)の可能性を探った。

アメリカの8大学を対象にナレッジマネージメントの実践・浸透状況を調査した結果明らかになったのは、(1)KMは大学の運営を強化する方策の一つとして推し進められていること、よって、(2)運営・管理、研究、教育に関わる方針作成に有用な情報や資料の提供・共有がKMの主要な活動となっていること、(3)KMの実行可能性は、学内データベースの統合・拡充と、学外マクロデータの統合により拡大すること、(4)執行部の強力なリーダーシップは改革の最大の牽引力ではあるものの、部局を横断しまた各部局内に浸透し得るコミュニケーションチャネルを通して議論を重ねることで有効なKMが実現すること、(5)特に教育分野においては、「学生のため」であることの明確かな合意があれば、KMは活性し拡大すること、などであった。

次いで日本におけるKMの可能性を、IRを早期より開始した一橋大学の例を挙げて検討した。同大学では2006年にIRに着手して全学教育DBを構築しつつ、教学データを中心とした分析と分析結果の学内共有を進めてきた。2010年に文部科学省の競争的資金を得たことをきっかけに、これまで学内専門委員会や評価委員会への報告が主な情報提供ルートとしていた段階を越えて、(1)学内の教職員が必要な時に必要な情報およびデータを抽出・活用できるインターフェイスの構築、(2)そのために必要なシステム基盤とセキュリティの強化、(3)分析工程の簡素化と効率化、(4)KMポータルの開発・運用を目指して事業が進められている。

IRをカタリストとして教育、学習、学生生活のための支援を学内に広く深く浸透させようとするものであり、KMの機会を尊重することにより、十分な情報共有とフィードバックを密に反映するPDCAサイクルの実現が期待される。さらに、GPAの適正運用、三つのポリシーをはじめとする教学方針の策定、大学の特徴強化等に資するリソースを、学内のコンセンサスを確認しながら蓄積することが可能となる。

しかしながら、各大学の教育方針は定量化された情報をもとに、アウトカムベースで、あるいは一定のターゲットに到達するために定められるものではないと思われる。コアとなる教育方針はそれぞれの大学がその歴史の中で培ってきた哲学や文化に根ざすものであり、そこから生まれてくる人材像は多分にオープンエンドで未知なる可能性にあふれた個々人である。IRはむしろ、実態を客観的に把握する姿勢を維持し、時に特定の意思決定や活動を裏付けあるいはその再考を促し、必要があれば修正へと導く「科学的根拠」を提示できるよう位置づけられることが望ましいのではないか。その上で大学を構成し支えるコミュニティーにそれらの情報を適宜配信して大学教育の説明責任を遂行するリソースを蓄えることがもう一つの重要な使命であると考える。

■ 開催案内

第61回客員教授セミナー

講演題目
「大学のナレッジマネージメント― IRからKMへ」
講演者
松塚 ゆかり 氏
(一橋大学大学教育研究開発センター・教授)
日時
2012年7月26日(木)16:00〜18:00
場所
東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール

講演概要

学生ニーズの多様化、質保証の要請、競争の激化、予算削減への対応が迫られる中、大学は教育・研究・組織運営において自らの特徴や資源並びに市場を正確に把握することが求められている。その主翼を担うのがIRであり、本講演ではIRの具体的活動、体制、スキルミックスを紹介し、その発展的展開として、学内外の「知」を集約・共有し、教育改善、研究強化、組織改革へとつなげるとされるナレッジマネージメントの可能性を検討する。

お問合せ先
info@cshe.nagoya-u.ac.jp
Tel:052-789-5696
ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。
案内用ポスターPDFPDF

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