名古屋大学 高等教育研究センター

第115回招聘セミナー EUと北欧における生涯学習政策と
多様な学習成果の評価
澤野 由紀子 氏 聖心女子大学・教授 2013年5月17日(金)16:00〜18:00 名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール

■ 講演要旨

欧州連合(EU)は1990年代半ばから欧州における知識基盤型社会・経済の構築を目指した生涯学習政策を展開している。EUでは生涯学習を就学前から高齢期までのライフステージごとの、フォーマル学習(正規の学校教育を通した学び)、ノンフォーマル学習(社会教育、職場での研修など組織化されているが正規の資格に直接は結びつかない学び)ならびにインフォーマル学習(家庭生活やボランティア活動を通した学び、自己学習など)を含め幅広く定義している。様々な部門にまたがる多様な生涯学習に国境を超えて取り組むことも奨励する一方で、多様な学びの成果を効率的に評価・認定して就学や就労の機会に結びつけることを容易にするための共通のシステムの枠組みづくりが課題となっていた。各国における先行事例の調査などの成果をふまえ、2000年代末には「生涯学習の欧州資格枠組み(EQF)制定に関する欧州議会及び理事会勧告」(2008年)、「ノンフォーマル学習およびインフォーマル学習の認定のための欧州ガイドライン」(CEDEFOP, 2009)などが発表され、加盟諸国だけでなく、域外周辺諸国においても、対応した国の資格枠組みや認定制度を整備することが求められるようになった。

その後欧州の金融危機により若年失業者問題が深刻化するなか、2012年12月には「ノンフォーマル学習およびインフォーマル学習のヴァリデーションについて」の欧州理事会勧告が発表され、2018年までに各国においてノンフォーマル・インフォーマル学習ヴァリデーションのシステムを整備することとされた。同勧告によれば、Validationとは、権威づけられた者によって個人が習得した学習成果を対応するスタンダードに照らして測定することを確認するプロセスであり、(1)個人の特別な経験に関する対話を通した識別、(2)人の経験を可視化するための文書化、(3)これらの経験の形成的評価、(4)資格の一部もしくは全体につながる評価結果の認証の4段階で行われる。CEDEFOPのガイドラインが提示するValidationの方法としては、ディベート、自己表明法、面談、観察、ポートフォリオ法、プレゼンテーション、シミュレーション、テスト・試験などがある。Validationの結果については、EUが開発した共通の履歴書様式であるユーロパスやユースパスに記載できるようにし、欧州高等教育単位互換制度(ECTS)や欧州職業教育訓練単位互換制度(ECVET)といったフォーマルな教育資格制度と融合させていくことも課題となっている。

多様な学習成果の評価制度に関しては、類似の生涯学習政策を推進している北欧・バルト諸国間でも共同研究が盛んに行われている。スウェーデン語では従前学習のvalideringという用語が使われているが、これはフランス語からの翻訳ということで、フランス型のvalidationが参考にされていることがわかる。

■ 開催案内

第115回招聘セミナー

講演題目
EUと北欧における生涯学習政策と多様な学習成果の評価
講演者
澤野 由紀子 氏
(聖心女子大学・教授)
日時
2013年5月17日(金)16:00〜18:00
場所
名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール

講演概要

深刻な経済危機に瀕しているEUは、昨年、低技能層の進学や就労を促進するため、欧州資格枠組(EQF)に対応してノンフォーマルおよびインフォーマルな学びの成果を評価(validation)する仕組みを2018年までに構築することを加盟各国に勧告した。類似する生涯学習の伝統がある北欧諸国は、EUの動きに連動して、多様な学習成果評価のシステムづくりに共同で取り組んでいる。生涯学習を推進する上でのその効果や課題ならびにEU域外諸国への影響について考察する。

お問合せ先
info@cshe.nagoya-u.ac.jp
Tel:052-789-5696
ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。
案内用ポスターPDFPDF

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