第117回招聘セミナー
主体的な学びを促すカリキュラム・デザインとは
−FDの課題とIRの可能性−
山田 剛史 氏
愛媛大学 教育・学生支援機構 教育企画室 准教授
2013年7月19日(金)16:00〜18:00
名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール
講演要旨
まず,近年のカリキュラム改革の在り方をめぐる問題背景として3つのモードシフトを取り上げた。第1は,大学教育パラダイムの転換。教授(者)中心から学習(者)中心へと改革の視点をシフトさせ,学習成果に基づくカリキュラムを再設計することが重要である。第2は,学生の成長ステージの拡張。正課−正課外という従来の2分法的な捉え方のみならず,両者をつなぐ役割として準正課教育に相当する取り組みが文科省GPなども駆動力としながら増えてきている。学生は教室の中,単位の範疇内のみならず,キャンパス内外で主体的に学び成長している。第3は,FDの拡張である。FDに関する政策的な議論も含め,従来の授業論(ミクロ)に特化したFDから,カリキュラムや組織論に至る広範な領域までをFDのターゲットとして想定する必要性が増してきている。これらの問題背景から,より学生の主体的な学習を促すためのカリキュラム(ミドル)レベルの議論を進めていくこと,そして,その方法として期待されているアクティブラーニング(AL)の実態について明らかにしていくことが急務の課題であると思われる。
今回の講演では,2013年2〜3月にかけて日本高等教育開発協会(JAED)とベネッセ教育研究開発センターが共同で企画・実施した「大学の主体的な学習を促すカリキュラムに関する調査(学科長対象)」の分析結果に基づいて,これまであまり明らかにされてこなかった学科の専門カリキュラム(改革)の実態と課題を示すことを目的とした。
(1)組織的なALの導入状況について,8割強の学科でALが導入されていること,プレゼンテーションが最も実施され効果が得られていることなどが示された。(2)主体的な学習を促す方策について,約5割の学科でAL教室・スペースが設置されていること,FDは依然講演等一方向型のものへの依存率が高いこと,評価の大半は授業評価アンケートの実施にとどまっていることなどが示された。(3)カリキュラム改訂の力点について,約9割の学科がディプロマポリシーを意識して設計していること,重視している点として「整合性」「運用のしやすさ」「教員組織の合意形成」「学生・学外者の意見反映」の順に高くなっていることなどが示された。(4)カリキュラム運用上の課題として,6割強の教員が教育業績評価や教員負担の問題を指摘していること,「学生の能力(不足)」「教員・学生の負荷」「体制・評価システム」「適切なカリキュラム設計」の順に高くなっていることなどが示された。(5)カリキュラムの特徴(タイプ)について,約3割の学科が専門的知識より汎用的能力を重視したカリキュラムであること,経験を軸に専門的能力を重視し,系統的に配置されたカリキュラムが最も効果的と認識されていることなどが示された。最後に,ベネッセが実施した大学生の学習・生活実態調査(2012年)より教員と学生の授業・カリキュラムに対する意識の不一致性について示した。
課題として,「主体的な学習」という問題と手法としての「アクティブラーニング」には概念上の問題や実践上の課題が多く残されていること,その前提として教員・学生の教授・学習観の転換が必要であること,FDの選択・実施がこうしたカリキュラム改革と十分に連動していないこと,評価方法(アセスメント)も画一的・一面的であることなどが挙げられる。
開催案内
第117回招聘セミナー
- 講演題目
- 主体的な学びを促すカリキュラム・デザインとは−FDの課題とIRの可能性−
- 講演者
- 山田 剛史 氏
- (愛媛大学 教育・学生支援機構 教育企画室 准教授)
- 日時
- 2013年7月19日(金)16:00〜18:00
- 場所
- 名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール
講演概要
現在、日本の大学教育においては3つのモードシフトが進行している。第1は教授者から学習者への視点のシフト、第2は正課教育から準正課教育、正課外活動への成長ステージの拡張、第3は授業(ミクロ)からカリキュラム(ミドル)、組織(マクロ)へのFDの拡張である。
この改革転換期において、学生の主体的な学びを促すためのカリキュラムの実態はどのようになっているのか。本セミナーでは、全国の学科長等カリキュラムの責任担当者を対象に行った調査を中心に、FDの課題やIRの可能性を含め議論を深めていきたい。
- お問合せ先
- info@cshe.nagoya-u.ac.jp
- Tel:052-789-5696
- ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。