名古屋大学 高等教育研究センター

第68回客員教授セミナー 経験から学ぶ力とリフレクション 松尾 睦 氏 北海道大学大学院経済学研究科・教授 2013年10月30日(水)18:00〜20:00 名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール

■ 講演要旨

これまでの研究によれば、マネジャーの成長を決定する要因の70%は「仕事経験」、20%は「他者(アドバイスや観察)」、10%は「書籍・研修」であるといわれています。では、成長の7割を決める仕事経験にはどのようなものがあるでしょうか。日本の中堅・大企業12社の課長・部長を対象に調査したところ、マネジャーの成長に影響を与えていたのは、?部門を越えた連携の経験、?変革に参加した経験、?部下を育成した経験の3つでした。

しかし、これらの経験をしても、成長する人と、成長しない人がいます。その違いは、経験から学ぶ力の違いによると考えられます。私は過去の研究を整理して、「ストレッチ」「リフレクション」「エンジョイメント」「思い」「つながり」という5つの要素からなる成るモデルを提示しています。ストレッチとは、高い目標に挑戦する力、リフレクションとは、経験を振り返り教訓を引き出す力、エンジョイメントとは、仕事のやりがいや喜びを感じる力です。これら3つの力を高めるのが、仕事上の目標や価値観・信念である「思い」であり、他者との関係性である「つながり」です。すなわち、適切な思いとつながりを持ち、挑戦し、振り返り、楽しんで仕事をするとき、人は経験から多くのことを学ぶことができます。

では、経験から学ぶ力を高めるにはどうすればよいのでしょうか。一つの手段は上級者による指導です。ダイヤモンド社が共同で、日本の大手企業22社を対象とした調査を実施したところ、教え上手のOJT担当者は、経験から学ぶ力を高めることで部下や後輩を指導していることがわかりました。すなわち、「目標のストレッチ」、「進捗確認・相談」、「内省の促進」、「ポジティブ・フィードバック」において優れた指導を行っている点が明らかになったのです。

上述した経験から学ぶ力のモデルを基に、経験学習を促すリフレクションの特徴について考えてみたいと思います。第1に、適度に難しい仕事に取り組むことです。難易度が高いからこそいろいろと考えるようになります。第2に、他者からフィードバックをもらい、批判にオープンになることが大切です。自分だけで振り返っても独りよがりのリフレクションになる恐れがあります。第3に、行為の最中も振り返ることです。深く考えながら仕事をすることで、仕事の後の振り返りも深くなります。第4に、失敗だけではなく、成功も振り返る必要があります。成功の振り返りによって得た自信は、挑戦するための基盤となるからです。第5に、他者や自分を責める追い込み型の振り返りではなく、未来志向で振り返らなければなりません。第6に、「成長したい気持ち」を持つことで、振り返りの目的や基準が明確になります。最後に、成長を促してくれる他者との関係を築くことです。なぜなら、本質的なコメントをしてくる他者とつながることで、適切なフィードバックを得ることができるからです。

■ 開催案内

第68回客員教授セミナー

講演題目
経験から学ぶ力とリフレクション
講演者
松尾 睦 氏
(北海道大学大学院経済学研究科・教授)
日時
2013年10月30日(水)18:00〜20:00
場所
名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館7Fオープンホール

講演概要

人は経験を通して学び、成長します。本セミナーの前半では、熟達、経験学習、および経験から学ぶ力について各種データを用いて説明します。後半では、経験学習プロセスにおいて鍵となる「リフレクション(内省・振り返り)」に焦点を当て、学習を促すリフレクションのあり方について考える予定です。

お問合せ先
info@cshe.nagoya-u.ac.jp
Tel:052-789-5696
ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。
案内用ポスターPDFPDF

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