第75回客員教授セミナー
教育目標・学習成果の合意をいかに形成するか
-テスト問題作成を通じた取組-
深堀 聰子 氏
国立教育政策研究所高等教育研究部 総括研究官
2015年7月9日(木)16:00~18:00
名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館5階 アクティブラーニングスタジオ
開催案内
第75回客員教授セミナー
- 講演題目
- 教育目標・学習成果の合意をいかに形成するか
-テスト問題作成を通じた取組- - 講演者
- 深堀 聰子 氏
- (国立教育政策研究所高等教育研究部 総括研究官)
- 日時
- 2015年7月9日(木)16:00~18:00
- 場所
- 名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館5階 アクティブラーニングスタジオ
講演概要
教育目標に適合的な教育課程を設計・実践することが重要であることは、教育段階を問 わず論を俟たない。大学教育においても同様であり、教育課程の体系化を実現する前提と して、教育目標や達成すべき学習成果の明確化が求められている。しかしながら、学問分 野と大学組織の自律性と多様性が尊重されてきた大学では、何を教育目標とするのかにつ いての合意を形成すること自体が、学問分野としても学内組織としても容易ではない。 本講演では、工学分野でのテスト問題バンクの取組を取り上げる。これは、国内外の大 学教員が集い、テスト問題や採点基準を共同で作成して共有することを通じて、教育目標 や達成すべき学習成果に関する意見を調整して合意を形成することを目指すものであり、 通常とは逆のプロセスをとる。この取組が、大学教育に与える効果や今後の課題について 検討する。
講演要旨
名古屋大学高等教育研究センター第123回招聘セミナー(平成26年4月24日)では、OECD-AHELOフィージビリティ・スタディの取組の成果と課題について紹介し、大学の教育改善に資する国際的な学習成果アセスメントの在り方について議論する機会をいただいた。
OECD-AHELOフィージビリティ・スタディ(平成20~24年)とは、大学教育のアウトカムを世界共通のテストを用いて測定することが可能かどうかを検証する調査研究で、日本は工学分野で参加した。この取組より、工学教育では大学教育を通してどのような知識・能力の習得が期待されるかについて国際的な共通認識が醸成されてきているため、更なる検討と経験を重ねれば、妥当性と信頼性のある国際的な学習成果アセスメントを実施することは可能であるという結論が導かれた。また、学問分野の専門家が国内外より集い、コンピテンス枠組みの構築、テスト問題と採点ルーブリックの作成、テスト実施と採点といった一連の活動に取り組み、経験を共有できたこと自体が、大学教育のアウトカムについての共通理解を構築する上で、極めて重要なプロセスであったことが確認された。
こうした知見に基づいて、国立教育政策研究所では平成26年度より、機械工学分野でテスト問題バンクの構築に取り組んでいる。前述したとおり、工学分野では学習到達目標が日本学術会議の分野別参照基準やJABEE認定基準として示されており、大学教育のアウトカムについての共通理解形成に向けて一定の経験が既に蓄積されている。しかしながら、工学分野でも大学教育の自律性と多様性を尊重する立場から、学習到達目標についての記述は抽象的なものに留められており、水準を含む具体的な形では示されていない。そうした中でテスト問題バンクでは、テスト問題作成というアプローチで、工学分野の学習到達目標(学士課程修了相当)に関する実質的な共通理解を形成することを目指している。さらに、作成したテスト問題を海外の大学教員と共有することを通して、国際通用性を確保することも目指している。
平成26年度には、18大学の教員29人の共同作業を通して「技術者のように考える力」を問う記述式問題6問、「基礎的な知識・技能の習得」を問う多肢選択式問題45問を作成し、その過程でコンピテンス枠組みと水準について合意を形成することに成功した。平成27年度には、全国3拠点で新たな大学教員の参画を呼び掛け、活動のモデル化に取り組んでいる。本取組は、大学教育のアウトカムに係るエキスパート・ジャッジメントを鍛え、国際的合意を形成することに向けた大学教員の主体的取組として、国内外の工学教育はもとより、大学教育全体にとって重要な示唆を提供することが期待される。
- お問合せ先
- info@cshe.nagoya-u.ac.jp
- Tel:052-789-5696
- ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。 会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。