第85回客員教授セミナー
学生エンゲージメントと大学教育の質的転換
-教学IRをどう活用するか-
山田 剛史 氏
京都大学高等教育研究開発推進センター・准教授
2017年6月22日(金)16:00~18:00
名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館5階 アクティブラーニングスタジオ
開催案内
第85回客員教授セミナー
- 講演題目
- 学生エンゲージメントと大学教育の質的転換
-教学IRをどう活用するか- - 講演者
- 山田 剛史 氏
(京都大学高等教育研究開発推進センター・准教授) - 日時
- 2017年6月22日(木)16:00~18:00
- 場所
- 名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館5階 アクティブラーニングスタジオ
講演概要
現在、カリキュラムの体系化やアクティブラーニングの推進など大学教育の質的転換が求められている。加えて、それらを通じた学習成果の測定や評価に基づく改善など教育の質保証に関する組織的なマネジメントも喫緊の課題となっている。
こうした教育改革の中心にあって最も重要な視点は、学生の学習改革を促すことである。換言すれば、いかに学生のエンゲージメントを高めるかが教育改革の成功を決定づける。本セミナーでは、学生エンゲージメントを高める教育の組織的展開について、特に教学IRとの関係から検討する。
講演要旨
本セミナーでは、急激な展開をみせる高等教育改革の政策動向と実態とを押さえつつ、そこで生じている課題や問題点を浮き彫りし、創造的解決のために異なる視点からアプローチを試みた。具体的には、様々な社会的背景・要請を受けて高大接続の一体的改革を始めとした大学教育の質的転換が急務の課題になっていること、その一翼を担うものとして内部質保証システムの構築およびその具体的方策として3ポリシーに基づく学士課程教育の再構築が求められていること、PDCAサイクルを実質化するための教学IRへの期待が高まっていることなどを取り上げた。特に、教学IRはどのような営みでどのような機能・役割を担っているのか、具体的な実践にも触れながら紹介した。また、高等教育改革の中核的イシューでもある学習成果(ラーニング・アウトカム)の可視化と測定について、様々な方法・ツールがあることを紹介し、それぞれの長所・短所についても取り上げた。
前半にこのような概況を把握した上で、後半では特に近年アメリカで研究が急速に進められている学生エンゲージメント(student engagement)を中心に据えて報告を行った。アウトカムへの過度な傾倒や大学ランキングへの不満などを鑑み、実質的な教育改革・改善のためにはプロセス指標への着目が重要であること、認知的側面や社会経済的側面に加えて学生の発達的側面を捉える視点が必要であることなどから学生エンゲージメントへの関心が高まってきた。学生エンゲージメントは、大学生の学習や発達に影響を与える大学での経験についての一連の研究を総称する用語(umbrella term)であり、Astinの「関与」を軸とした発達理論やTintoの統合理論、Pascarellaの一般因果モデル、一連のカレッジ・インパクト研究などを学問的ルーツとしている。動機づけ研究とも親和性が高く、目標達成理論や自己決定理論、自己効力感やアイデンティティなど、様々な概念・理論とも関連づけて研究がなされている。また、学生の学生エンゲージメントを高めるために、地域や家族、学校や教師、教室や友人、民族性など、生涯学習・生涯発達的視点から捉えていくことが期待されている。
このような大きな文脈の中で捉え、学生を育成・支援し、学生がトランジション課題を乗り越えていくために行うのが大学教育の担うべき重要なミッションであり、その意味でもプロセスとしての学生エンゲージメント(大学生として経験する事柄への認知的・行動的・情緒的関与)という視点は、形式的な質保証対応や過度なアウトカム重視、教授者中心のアクティブラーニング展開などが進む日本の大学教育が見過ごしがちな視点ではないだろうか。また、客観性や妥当性などの観点から、厳密で過剰な負荷を強いるアセスメントの開発・実施も進められているが、そのことが学生の関与の質や成長・発達の豊かさを見過ごしてしまわないよう留意する必要がある。誰のための何のためのアセスメントなのか。このデータは学生の学びと成長の促進に本当につながるのだろうか。こうしたことを考え抜いてアセスメントや教学IRを設計・実施することが必要である。
学生が大学での様々な経験にエンゲージメントし、社会へのトランジションを円滑にし、生涯発達社会のなかでタフに幸福に生きていくために、大学教育の質的転換、内部質保証の構築、教学IRの展開がなされることを期待してやまない。
- 申し込み方法
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- お問合せ先
- info@cshe.nagoya-u.ac.jp
- Tel:052-789-5696
- 本セミナーに関する質問事項等があれば、上記のお問い合わせ先まで連絡をお願いいたします。
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