第156回招聘セミナー
第8回「アドミッション担当教職員支援セミナー」
名古屋大学大学院教育発達科学研究科附属高大接続研究センター
「レクチャーシリーズ」公開研究会
フランスの高大接続からのヒント
-思考力・表現力と内申点の評価-
細尾 萌子 氏(立命館大学文学部・准教授)
韓国の大学入試改革の現在
-私教育抑制政策と教育機会の格差-
松本 麻人 氏(名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授)
2018年10月26日(金)13:00~16:00
名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館5階 アクティブラーニングスタジオ
開催案内
第156回招聘セミナー
第8回「アドミッション担当教職員支援セミナー」
名古屋大学大学院教育発達科学研究科附属高大接続研究センター「レクチャーシリーズ」公開研究会
- 講演題目
- フランスの高大接続からのヒント-思考力・表現力と内申点の評価-
韓国の大学入試改革の現在-私教育抑制政策と教育機会の格差- - 講演者
- 細尾 萌子 氏(立命館大学文学部・准教授)
- 松本 麻人 氏(名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授)
- 日時
- 2018年10月26日(金)13:00~16:00
- 場所
- 名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館5階 アクティブラーニングスタジオ
講演概要
フランスの大学入試であるバカロレア試験では、200年近くも論述試験を中心としてきた。しかし、2018年からの大学入学制度の変更と 2021年からのバカロレア試験改革により、高校の内申点が、大学入学の重要な要素となる。日本の高大接続改革では、多面的・総合的な評価方法や内申点の扱いが焦点となっている。本講演では、フランスの高大接続における思考力・表現力と内申点の評価に関する論点を整理し、日本への示唆を述べる。
厳しい大学受験競争が社会問題化して久しい韓国では、競争の緩和を目指す入試改革が繰り返されてきた。導入後10年を迎える入学査定官制も、学生の多様な資質・能力の評価をその趣旨に挙げているものの、真の狙いは「私教育」と呼ばれる学校外学習の抑制にある。しかし、その効果は限定的であるばかりか、教育機会をめぐる新たな問題を生みだしている。本講演では、韓国における主な入試改革の概要やその背景、近年の課題について取り上げる。
講演要旨
フランスのバカロレア試験は論述試験が中心であり、思考力・表現力を評価する大学入試の一つのモデルとなりえる。一方、2021年から、バカロレア試験の40%を高校の内申点で評価する制度に改革される。本講演では、フランスの高大接続における思考力・表現力と内申点の評価に関する論点を整理し、日本への示唆を述べた。
論点として、次の5点を指摘した。①誰が大学入試の作問をするか、②論述試験の評価の信頼性をいかに確保するか、④受験準備勉強の抑制のために大学入試に内申点を導入すべきか、⑤内申点評価の方が匿名の外部試験より公正か。
日本への示唆として、次の3点を述べた。一つ目は、妥当性(評価したいものを本当に評価しているか)の問題である。日本では各大学が受験者を選抜するため、大学教員が入試問題を作問してきた。しかしながら、大学教員は、高校の教育内容の専門家ではない。高校の各教科の知識だけではなく、それを活用する思考力・表現力も問う問題を、大学教員がはたして作成できるのか。大学入試における評価の妥当性を担保するためには、高校教員の労働時間削減策とセットで、高校教員の作問への参画を検討する必要があると思われる。
二つ目は、信頼性(評価しようとしているものを正確に評価しているか)の問題である。大学で必要となる思考力・表現力を入試で問うことは大切なので、その評価基準に採点者の裁量が入っても受け入れる感覚、信頼性を多少不問にしても妥当性の確保が重要だという考えを国民が共有できるか。日本の大学入試は、公平な手続きによる選抜だから落ちても仕方がないと国民を納得させる冷却装置であり、大学教育の基礎学力を受験生に身につけさせる加熱装置ではなかったという入試の社会的位置づけが、思考力・表現力を評価する大学入試の障壁になると考えられる。
三つ目は、公正性の問題である。内申点の高校間格差や採点のバイアスといった、公正性の問題への自覚が必要である。公正性の概念について再検討する必要もある。
公正性に関しては、次の三つの捉え方が考えられる。
①手続きが公平であれば、生徒の社会的背景や生来の属性が影響しても公正
②手続きの公平性と関係なく、生徒の社会的背景や生来の属性に影響されないのが公正
③恵まれない社会階層や地域の生徒を優遇するのは公正(例:韓国の特別選考)
日本では①の手続き重視の捉え方が重要視されているが、フランスの②のように、家庭環境が影響するのは公正ではないと考えるならば、内申書の項目として、「留学・海外経験」は入れるべきではない。貧富の差が影響するからである。
韓国では厳しい受験競争が社会問題化している。かつて世界最高水準ともいわれた大学等進学率は、最近10年間の推移をみると低下傾向にあり、表面的には大学進学熱が冷却されてきているようにもみえる。しかし、普通高校の進学率はさほど変動しておらず、上位層の大学入学をめぐる熾烈な競争に大きな変化はない。
こうした受験競争がもたらす弊害の1つとして韓国政府が問題視するのが、一向に減少しない私教育費である。度重なる入試改革は、私教育と呼ばれる学校外学習活動の抑制策の軌跡といっても過言ではない。全国共通試験である大学修学能力試験や面接、論述試験などの難易度を下げる一方、高校の調査書に相当する学校生活記録簿を重視する選抜方法が重点化されてきた。2008年から本格的に導入されている入学査定官制度も、創造力やリーダーシップなど多様な資質・能力を測ることを趣旨として掲げているものの、政府が最も期待しているのは、私教育に対する抑制効果である。
韓国政府が私教育を抑えることに躍起になるのは、私教育が競争の公正性を歪めていると捉えているからである。すなわち、入学者を学力で選抜することによって生じる教育機会の不平等は、公正な競争によって是認されるが、経済力が豊かであればあるほど私教育に多くの費用をかけることができるため、受験競争において有利であることが問題視されてきた。中等教育の平準化政策により、学力による選抜は大学入試が実質的に初めてとなるため、大学の受験競争に注ぎ込まれるエネルギーは過大なものとなっている。こうした中、知識偏重型の教育や入試に対する批判を背景の1つとする入学査定官制度の導入は、私教育抑制策の切り札でもあった。
しかし、政府による入試の難易度低下の誘導に反発する大学側は、たとえ入学査定官による選抜であっても、高度な知識を問う入試に工夫を凝らしている。そうしたこともあってか、私教育の規模の動向に大きな変化はない。一方で、多様で豊かな文化・社会的な資質を重視する入試は富裕層に有利という指摘もある。家庭経済の影響の排除に努めてきた韓国の入試改革だが、その成果は見られないままであり、改革の教育的な意義に関する議論は置き去りのままである。
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