第93回客員教授セミナー
教員養成機関に対する評価システムを
どう構築できるか:
米国アクレディテーションの経験から
佐藤 仁 氏
福岡大学人文学部教育・臨床心理学科 准教授
2018年12月13日(木)15:00~17:00
名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館5階 アクティブラーニングスタジオ
開催案内
第93回客員教授セミナー
- 講演題目
- 教員養成機関に対する評価システムをどう構築できるか:米国アクレディテーションの経験から
- 講演者
- 佐藤 仁 氏
(福岡大学人文学部教育・臨床心理学科 准教授) - 日時
- 2018年12月13日(木)15:00~17:00
- 場所
- 名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館5階 アクティブラーニングスタジオ
講演概要
米国では、教員養成の質保証システムとして、アクレディテーションが100年近くにわたって機能してきた。ただし、その方針や理念、方法論等を巡っては様々な議論が展開されており、実際に利害関係者間の合意形成は難しいのが現実である。そのため近年では、「評価団体が二分する」という過去の歴史が繰り返され、状況は混沌としている。本報告では、こうした米国の教員養成分野のアクレディテーションの動向を整理することで、わが国の教員養成機関に対する評価の可能性について考えたい。
講演要旨
2015年の中教審答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」において、教職課程の評価の推進が示され、特に教職課程の恒常的な質保証・改善を目指す自律的な相互評価システムの可能性が指摘された。こうしたシステムの構築は、これまでにないものであり、多くの課題に直面することは容易に想像できる。そこで本報告では、特に米国のアクレディテーションの経験を整理することで、自律的な相互評価システムの構築に向けた課題を提示し、その解決に向けた方途を議論した。
米国における教員養成機関のアクレディテーションは、教員養成に関わる多様なアクターが関与していくという展開を経ている。その過程では、アクター間のコンフリクトをめぐって、常に問題が生じていた。例えば、教員養成機関と教員組合、教員養成を重視する大学と研究大学等である。これらのコンフリクトにより、1990年代後半にアクレディテーション団体が二つに分かれるという事態が生じた。しかし、教員養成機関に対するアカウンタビリティを求める声が増大する中で、専門団体の一本化に向けた議論が展開され、2010年に二つの団体は統合することになった。
2018年現在、統合された団体であるCAPEがアクレディテーションを行っている。統合時には、「すべての教員養成機関の質的向上」を理念に掲げていたのだが、近年、その方向を転換し、「卓越性」を前面に出すようになった。具体的には、基準を厳格化し(入学基準や修了生の学力向上の貢献度等)、プロセスを画一化する方策を採っている。この動きに対する批判の声もあり、2017年にCAPEから離れた関係者や大学によって、新たな団体(AAQEP)が結成された。AAQEPは、教員養成機関の文脈(context)を重視した取り組みを評価する基準を設定することで、CAPEとの差別化を図っている。
以上の米国の経験の知見から、次の二点を課題として指摘した。一つは、教員養成機関の多様性や教員養成の学術的基盤(エビデンス)の複雑性から「一定の基準」で評価するという方法論が採りづらいことである。もう一つは、多様なアクターが関わることや、既存の制度(課程認定制度等)との関係性から、「誰が主導するのか」という点で政治的闘争に陥りやすいという点である。これらの根源的課題は、わが国でも同様に考えられることであり、「何を目的とするシステムなのか」という点を明確にしたうえで、制度設計を進める必要性がある。
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