名古屋大学 高等教育研究センター

第17回客員教授セミナー 高等教育における教員養成学の位置づけ 日本と香港の比較 デビッド・グロスマン氏 香港教育学院教授/名古屋大学高等教育研究センター客員教授 2003年 1月16日(木) 午前10時 名古屋大学東山キャンパス 文系総合館5階 センター会議室

■ 講演要旨

 本発表では、高等教育における教員養成学の位置づけを、日本と香港を比較考察することによって明らかにしたい。両国では深刻な経済不況と少子化、グローバル化への対応策として教育改革が進行中であり、教員養成はその主要課題となっている。

 世界的にみても、初中等教育の教員養成を目的とする師範学校は、伝統的に大学からは切り離されてきたケースが多い。大学と師範学校を比較すると、理論重視と実践重視、価値中立と道徳重視、学問の自由と国家による管理・統制など、さまざまな対照性を見いだすことができる。日本では明治時代に旧制高校−帝国大学とは別系統の師範学校体系が作られた。第二次大戦後は、教員養成を教員養成学部・教員養成大学だけに限定しない開放路線がとられてきた。香港の高等教育も、戦前の日本と同様に大学と師範学校の二元システムがとられており、1994年に種々の師範学校は「香港教育学院」(Hong Kong Institute of Education)として統合された。さらに、香港政府は2002年に、教育学院を総合大学として昇格させることに言及している。こうした再編には、十分な時間と相互理解が不可欠であり、再編に伴うコストを低く見積もってはならない。

 日本と香港の教員養成にはいくつかの相違点もある。日本では教員免許を取得した後に教員採用試験が科せられるのに対し、香港では教育学院の修了資格によって教職に就くことができる。また、教職に対する競争倍率が非常に高い日本と比較して、出生率が日本以上に低い香港では教職の人気は低く、教育学院の機能はむしろ現職教師に対するキャリアアップのための研修に重点を置いている。

 両国の教員養成はその需要減少に伴って再編されつつあるが、予想以上にそのコストは高くついており、必ずしも経済的・効率的とはいえない。教員養成にとって本来の教育目標(優れた教師をいかにして養成するかということ)を損なうことがないように配慮が必要である。