名古屋大学 高等教育研究センター

第40回招聘セミナー 授業評価とFD 香川大学における全学的取組からみえるもの 稲永 由紀 氏 香川大学 大学教育開発センター講師 2004年 6月11日(火) 午前10時 名古屋大学東山キャンパス 文系総合館7階 オープンホール

■ 講演要旨

 本報告では、香川大学・大学教育開発センターに着任し2年目を迎えた報告者が、あえて「ニューカマー=他者性」としての視点をだいじにしながら、香川大学の<メタ>分析を試みたい。とくに、授業評価とFDをめぐる動きに焦点をあて、いくつかの<メタ>的検証を加えることによって、授業評価とFDの実施・方法に関する実際的課題を析出することが期待できる。

 香川大学での授業評価の歩みは、第1期:1998−1999年の全学的授業評価導入、第2期:2000−2002年の授業評価+カリキュラム・授業等に関する全般的評価導入、第3期:2003−2004年のセンター協力体制下での全学的評価実施(実施主体は自己評価委員会)、に分けられる。この歩みと平行して、全学FDの取り組みも段階的に展開してきた。第1期:1999−2001年の学長主導の「3ヵ年計画」、第2期:2002−のセンター体制下における「3ヵ年計画」からの離陸、新しいPDSサイクル確立の試み、と大きく特徴づけられる。

 最近では、2003年度に学生による授業評価が実施され、FDへの布石として、結果の学部内公開も達成された。一方で、大学の中期目標・中期計画に授業評価が明記されるに伴い、授業評価実施主体も検討の対象にのぼっており、不可視な部分も大きい。

 もともと、沿革に見るように、学内に濃密なネットワークを持つコミュニティが形成され、教職員の小さなパーソナルネットワークで支えられている(と思われる)香川大学では、FDをめぐる全学的展開は比較的スムースに行われている。この点は香川大学の強みであるといえるが、学部によって温度差が存在することも否めない。さらに、全学的展開をより強固にするため、授業評価とFDの実質的連動を考えた時、目的と方法論の乖離が浮かび上がってくる。いったい「授業評価」とは授業改善目的なのか、査定目的なのか? さらに、その目的に沿った方法論や分析枠組みとは? 

 とくに、授業評価について、「授業評価」という言葉にからめ取られた多様かつ弁別すべき意味に、私たちは自覚的だろうか。なおかつ、目的や方法論の異なるもの−授業評価とFD−を接合して、ねじれたPDSサイクルを生み出してはいないだろうか。さらに、現場において、外部機構による認証評価をにらんだ<アリバイ>評価化が、実態として進行しているとはいえないだろうか。

 こうした<メタ>セルフスタディ的視点でしか指摘できない問題点とは、今のところ報告者自身が抱く懸念でしかない。ただ、こうした状況は香川大学だけでなく全国的に言えることなのかもしれない。そうであるならば(だからこそ)、大学教育センターないし専門家の役目は、授業評価ないしはFDを含めた教育活動構築へ直接的に関わっていく役目と同時に、組織の<メタ>セルフスタディを確実に行う役目に焦点化されるだろう。ただし、<メタ>セルフスタディによって析出された課題は、ただちに、それを克服する方法論やシステムを組織が構築しているのか否かという問に形を変え、組織自身に突き返される。「ノー」と答えることは容易いが、それは同時に「センター不要論」を認めることにもなる。専門家が、組織に根強く存在する「現場・歴史第一主義」に絡むことは困難であるけれども、その意義ははるかに大きいのだ。