第35回招聘セミナー 大学カリキュラム論 アメリカからの示唆 川嶋 太津夫 氏 神戸大学 大学教育研究センター教授 2004年 2月27日(金) 午後2時 名古屋大学東山キャンパス 文系総合館5階 センター会議室
講演要旨
大学のミッションの中核に相当する教育の質の保証は、「カリキュラム開発・改革」「教員開発」「組織開発」が三位一体となってはじめて実現される。本報告では、とくにアメリカにおけるカリキュラム研究の成果および個々の現場での取り組みから、日本の大学におけるカリキュラム開発・改革への示唆を得たい。
カリキュラムを学習者が学習目的に到達するまでの手段と位置づけた場合、個々の教師および教師集団は、常に意図される学習成果を意識し、なおかつその対象である学生を考慮しながらカリキュラム開発・改革にあたらざるを得ない。しかしながら、異なる学問分野を背景とする教師間の議論はとかく混乱しがちであり、合意を形成することが難しい。
その際、カリキュラムの開発・改革にむけた議論に一つの有効なフレームを提供するのが、Starkによる「教育計画(Academic Plan)」の構図とその構成要素である。とりわけ、目的、内容、順序、学習者、教授過程、教授リソース、評価、調整に要素を分解し、これまでのカリキュラム「論争」の整理に寄与した点、カリキュラムとそれをめぐる環境要因とのダイナミックな相互作用を視野に入れつつ、カリキュラムをオープンシステムとして捉えた点、さらに、同フレームが大学全体のカリキュラム、学部・プログラムのカリキュラム、個別授業科目のカリキュラムそれぞれに適応が可能な点などがメリットとして挙げられる。
こうした教育計画のフレームを大学の現場に引き寄せれば、大学全体のカリキュラムを誰がどのように俯瞰し把握するのか、すなわち、大学全体のカリキュラムの実施と評価をいかにして行うのか、という問がただちに浮上してくる。つまり、大学全体のガバナンスのあり方とカリキュラムマネジメントの問題に帰着するのである。たとえば、アメリカのノーザン・アイオワ大学(The University of Northern Iowa)では、「カリキュラム調整会議(Curriculum Coordinating Council)」が1996年から発足し、デパートメントやスクールなど各レベルのカリキュラムに対し、開発の段階から大学全体の教育計画を視野におさめた調整がはかられている。大学のミッションと教育計画との整合性が保たれたカリキュラムマネジメントが機能している好例である。
アメリカのケースから導かれる日本の大学への示唆は、5つにまとめられよう。カリキュラム開発・改革においては、第一に、大学の使命の確立、確認と共有をはかること、第二に、大学全体のカリキュラムの現状を把握すること、第三に、教育を大学として体系的に運営し、支援するシステムを確立すること(具体的には、教育研究評議会の役割の検討など)、第四として、カリキュラム研究の充実とその成果を大学教員養成体制へ取り込むこと、そして、FDセンターに代表されるような大学カリキュラム開発支援スタッフの養成を促進することが必要である。