第26回客員教授セミナー 教養教育カリキュラムをどうつくるか キース・クロフォード 氏 英国エッジヒル大学教授・高等教育研究センター客員教授 2005年(平成17年)1月21日(金) 午後2時よ 名古屋大学東山キャンパス 文系総合館7階 オープンホール
講演要旨
本発表では、グローバリズムの潮流のなかで大学の教養教育カリキュラムをいかに開発していくかを考えるために、 教養教育カリキュラムの原則、経験に基づく教授学習の特性、社会や学生のニーズをふまえたカリキュラム開発の研究課題について検討したい。
今日、人口構造の変化、テクノロジーの進展、「国家」のアイデンティティの危機、多国籍企業の力の増強が世界規模で展開している。 過去とのつながりが絶たれ、かつ将来が不可視な状況において、いかなる知識に最大の価値をおき、その知識を教育するかが課題となっている。 とりわけ、大学においては、大学をとりまく「市場」の社会経済的な要求や、消費者としての学生のニーズ、雇用者の要望等を無視することはできない。
たとえば、グローバル化が進む社会でしのぎを削る企業からは、 大学卒業生にコミュニケーション能力や対人能力、 ITスキルや柔軟性等が要求され、 大学にはこれらの幅広い能力をすべて包摂するようなカリキュラムの開発が求められている。 さらに、国際社会や多文化社会に固有な問題に取り組む人材や、実社会において積極的に貢献する高い資質の成熟した人間を育成することが期待されている。
こうした社会からの要求に、大学はただやみくもに追随すべきではないが、 耳をふさぐわけにもいかない。 大学における学習と雇用可能性(Employability)との関係を問い直すことが現実的な課題なのだ。 では、大学における教養教育はどのようにその本来的意義や原則―知的成長の促進、 生涯学習への積極的な方向付け、 自然・文化・社会に関する知識や探求の基礎に対する理解、 分析と表現に関するスキルの獲得、 学習と市民権およびコミュニティ・サービスの関係の追求―をもって社会の期待に応えるべきか?
いま、学士課程教育の支柱となるべき能力を考えれば、 主題に関する知識および理解力、主題に固有な技能、内省的かつ批判的な思考力、 知識の応用力、の4つが挙げられる。 また、教養教育の内容を構成する基本的な要素については、探求および知的判断、 社会責任および市民としての社会関与、統合的および経験的学習の視座、 の3つが指摘できる。 さらに、経験的学習理論にそくせば、 コルブ(Kolb)の学習サイクル(具体的な経験→観察と反省→概念化と一般化→積極的な実験)が示すごとく、 教養教育において獲得した知識やスキルは、実社会において活かされてこそ意味を持つものであるといえる。
たとえば、大学の初年次セミナーでは、 学生が学習活動を通じてある特定の主題や問題に対処する方法を獲得するように教師は導かなければならない。 そこでは、どのようなトピックがふさわしいのかが重要なのではなく、 どのようなプロセスを経て学ぶかが重視されるのである。 とくに日本の場合、初年次の段階で、 高校までの受動的な学習形態およびプロセスから、 成人学習環境としての大学における能動的な学習形態およびプロセスに転換することが重要である。
だとすれば、大学の授業設計や教授法等にも転換が迫られよう。 すなわち、大学における高等教育研究センターのような教授学習の専門組織が中心となり、初年次教育に対する評価、学士課程教育における経験的学習の統合、ファカルティ・デベロップメント等の応用教育研究の課題を追究することが現実の授業を改善する鍵となるのである。