名古屋大学 高等教育研究センター

第2回客員教授セミナー 「韓国の高等教育改革と大学評価」 具 丙林 氏 韓国高等教育研修院長 1998年 12月22日(火) 15:30- 名古屋大学高等教育センター 会議室


■ 講演要旨

? 韓国の高等教育改革

1 政治社会的背景と改革の必要性

(1) 高い教育熱と政治社会的混乱の中で大学人口は急増したが、教育環境と教育・研究の水準は低下している(大学187校、専門大学158校)。
(2) 長期の軍事政権と中央集権的統制により、高等教育の画一性、硬直性、閉鎖性、及び首都圏中心化が深刻化し、世界的趨勢に遅れをとった。
(3) 6.29宣言(1987.6.29)以後、権威主義の撤廃と新しい時代の民主化、自律化、分権化等の変化を大学教育面で受け入れる。
(4) 30年以上も続いた学園紛争の後遺症及び大学内での「抵抗と対決の慣性」を克服するため、大学の気風と雰囲気の革新が必要である。

2 改革の推進と過程

(1) 歴代政権は教育改革、特に大学教育改革を標榜し、機構を整え、さまざまな活動(セミナー、討論会、公聴会等)を行ない、報告書を出してきたが、1996年までは財政支援の問題で認識を広める効果はあったが、論議の段階にとどまった。
* 第五共和国(全大統領)時 教育改革審議会(1985−1987)
* 第六共和国(盧大統領)時 教育政策諮問会議(1988−1992)
* 金泳三大統領時 教育改革委員会(1994−1997)
* 金大中大統領時 教育共同体会議(1998−)
(2) 韓国で特に国際競争力の強化が強調された1996年の翌年1997年に、政府の教育予算がGNPの5%に達し改革の気運が成熟した。政府が今までの改革方案をまとめて「高等教育法」制定を提案し、法律第5439号(1997.12.13)として制定公布することによって一段落した。
(3) 政府(教育部)は1998年2月24日高等教育法施行令を公布し、その内容を具体化し、長い間規制中心的に運営された規則、行政命令等を緩和し始めた。

3 改革の主要内容

(1) 教育予算をGNPの5%まで上げて教育全般の向上を図るとともに、その一部を高等教育改革の支援に当てる。
(2) 大学設立認可制度を柔軟化するために大学設置に「準則主義」を実施する。
(3) 入学定員の規制を緩めて定員自律化を誘導する。
(4) 各大学入試の自律化を通して、多様化及び受験機会を増やす。
(5) これまでの学科制を学部制にして、系列別学生募集を奨励する。
(6) 大学憲章を制定し、各大学の機能と役割を特性化し、大学教育全体の多様化を実現する。
(7) 教育を供給者中心体制から消費者中心体制に変え、複数専攻、副専攻のための最小専攻学点制等、多様な分野で教育サービスの質と量を向上しなければならない。
(8) 「平生教育(生涯教育)」体制を強化するため、「学点(単位)」銀行制度を始め、放送通信教育、独学学位制度強化、修学年限の柔軟化、他教育機関での学点認定及び転学、編入学、転科、時間制登録、学期制と入学試験時期制限撤廃等を導入した。
(9) 大学の自律性を保障(憲法第31条)し、学事行政上の許可制・認可制等を報告・申告制に緩和した。
(10)大学評価を強化して、大学運営の生産性、効率性を高めるとともに教育改革の推進を促進する。

4 効果と問題点

(1) 硬直的に、画一化した韓国高等教育の大学観、教育観、学生観を改める契機となって、各大学の自己革新努力と競争的雰囲気を高潮している。
(2) 大学の個性化、多様化を指向したさまざまな試みとアイデンティティを築き上げるための発展計画研究、外部専門機関の診断と処方、構成員の認識転換を目的とする学内外の研修等が進んでいる。
(3) 大学評価にともなって以前にはみられなかった改革の努力と雰囲気の中で、特に教授集団に変化が起こっている。
(4) 政府側は「文明史的転換」と誇りにしているが、一方では政治的業績に執着して拙速処理し、十分な合理的過程を経ていないと言う批判もある。
(5) 各大学では政府の財政支援と連携されているため、十分な内部合議の形成がなく総長中心に進んでいる傾向もあって、改革の成否は時間がかかると同時に大学ごとに異なる。


? 韓国における大学評価

1 評価試行の背景

(1) 短い高等教育の歴史(50余年)と日本、米国の高等教育からの影響による混乱
(2) 高等教育の量的拡充による質的水準の低下を克服する方案の模索
(3) 教育改革の世界的波及と大学設置基準の乱れに対する各界の批判
(4) 大学内部の自己反省と改革的先導人士たちの大学評価認定制の主張
(5) 1987年度の教育改革案報告と大学総長たちの意見調整及びその受容

2 推進経緯

(1) 韓国大学教育協議会(以下、大教協)法第18条により当協議会が評価事業の主管機関として業務開始
(2) 大教協(KCUE)に、大学評価研究委員会と大学評価認定委員会を設置運営
(3) 両委員会で評価認定の政策および内容を審議決定して総会で承認
(4) 1993年から学問領域別評価認定制、1996年から大学綜合評価認定制を始める政策を 社会と大学に公表
(5) 「学問領域別評価」は10年ごとに、「綜合評価」は7年ごとに義務的に申請し、「自体評価」(セルフスタディ)を経て外部評価を受けることを確定
(6) 1998年末現在、92大学と12学問分野の評価認定が進んでいる状況

3 評価の方法とその内容

(1) 大学評価の基本的基準は、1992年度の大教協総会で決まった大学発展10ヵ年計画の理念と年次計画を確認点検してその達成度を測定することである。
(2) したがって、毎年の定量的基準は異なっているが、評価の2年前に評価研究委員会で決定し、被評価機関に通知して大学別に1年間「自体評価」を実施してその報告書を提出する。
(3) 評価の予算は、政府の補助金であり、評価団は経験ある大学教授を主に8人1組で2週間に3〜4の大学を評価する。
(4) 評価の結果は、さまざまな過程または審議を経て、国民と大学社会に公開すると共に、被評価大学に評価結果報告書を送付しフィードバックする。
(5) 評価項目は、6分野(教育、研究、社会奉仕、教職員、施設・設備、及び行財政)100個項目(定量的項目は36%、定性的項目は64%)から構成されており、各項目の加重値を加えて500点満点(標準偏差+1以上が認定基準)で評価している。
(6) 一連の過程で大学の名誉と序列化防止及び大学の自律性を重んじている。

4 問題点と参考事項

(1) 大学評価の本質を理解しない政府、国会、言論界における大学の等級化、序列化主張と一部後発大学等で評価に対する部分的反発もあった。
(2) 1991年度から私立大学補助(大教協の持続的努力の結果)が始まり、その支給基準のために毎年すべての大学を評価しなければ意味がないという政府(教育部)からの要求が続いたが、直ちには受け入れない事情がある。
(3) 以上のような傾向によって、教育部が助成金額を傾斜配分にするための資料を得るため大教協とは別途の評価及び教育改革推進度評価を行おうとしていること、さらには中央日報社によるジャーナリスティックな量的基準のみによる大学評定(US News World Reportsを模倣)によって評価体制に混乱が広がっている。
(4) 奨励的大学評価(認定制以前)とは違って目標指向的評価(1周期)には客観性、透明性の確保及び評価団の経験と専門性不足等の面で問題もある。
(5) 2001年からの質中心評価(2周期)に備えた基準と尺度の研究も進んでいるが、大学教育の自律性、多様性、開放性と各大学の特性化趨勢とが混在して複雑になっている。
(6) 各大学は 評価にあたって200名以上の教員を新規採用するなど(梨花大、延大、高大も)、評価事業は大学の雰囲気を大きく変えていくメカニズムとして効果を発揮しつつある。