第49回招聘セミナー 教授・学習過程における質的改善 ―初中等教育の授業研究モデルは高等教育に適用可能か?― サルカーニアラニ モハマッドレザ 氏 名古屋大学大学院教育発達科学研究科 2005年5月24日(火) 午後2時 名古屋大学東山キャンパス 文系総合館7階オープンホール
講演要旨
初中等教育、とりわけ小学校で盛んに行われている授業研究手法は、高等教育の授業改善に適用することは可能だろうか。私の考える授業研究とは、授業実践の向上を目指して教師が組織的に取り組むことである。授業研究は、教師間で共有されている専門職文化である。
日本の小学校で行われている授業研究は、同僚教師から学び合うことが基本である。授業研究は計画(plan)→実行(Do)→反省(See)→改善(Action)のサイクルになっている。最初に、教師全員で授業計画を作成する。授業担当教員はこれに基づいて授業を行い、他の教師はその授業を観察する。そして、授業後に反省会を開き、分析・評価・解釈を行う。反省会では、授業テーマ、教材、授業方法、教師の授業姿勢、生徒の学習活動の特徴などについて議論を行う。
こうした議論を経て、授業計画の見直し、新しい教授・学習方法の提案、知見の共有、自己改善活動へとつなげていく。つまり、少人数の教員が協同して、授業経験を振り返り、意見交換を行い、相互評価から学ぶのである。授業研究の方法論としては、エスノグラフィー(民族誌学)の質的手法を用いる。たとえば記録をとりながら、分析者が質問点を列記する方法などがある。
こうした授業研究の手法は高等教育に適用できるのだろうか。高等教育には「学問の自由」が与えられ、初中等教育には学習指導要領が存在する。大学教授には教育に関わるほとんどすべて(カリキュラムも教科書)を決定する自由があるが、初中等教育ではあらゆる教育目標・要素があらかじめ定められていて、教師にはそれをいかに実行するかという役割が求められる。大学教育では成人として学びを支援することが求められるのに対し、初中等教育ではどう教えるかという技法が問われる。
こうした違いはあるものの、大学教員にも教育専門職としての資質向上が求められている以上、授業研究によって教授・学習プロセスを改善するための方法論を学ぶ価値はあるだろう。まずは、互いの授業を見学し、意見交換の場を持つことから始めてはどうだろうか。