第54回招聘セミナー 米国の高等教育と研究組織 渡邉 康雄 氏 京都女子大学・名城大学非常勤講師 2006年1月18日(水) 14:00-16:00 名古屋大学東山キャンパス 文系総合館7階オープンホール
講演要旨
パーソンズ学とハーヴァード大学が、第二次大戦後四半世紀の間、米国内のみならず国際的にも、圧倒的な権威と影響力を誇ったのは何故だろうか。
コロンビア大学で既に応用社会調査研究所を設立していたラザースフェルドから、「学部と研究所の連携が社会科学の研究と教育には必要不可欠」とアドバイスを得たパーソンズは、社会学部、社会心理学、臨床心理学、社会人類学の同僚と共に、1946年、ハーヴァード大学に社会関係学部と社会関係研究所を設立した。研究所初代所長には、戦時中の社会調査でつとに著名なストウファーを迎えた。新学部と研究所は、「社会の中のパーソナリティと人間関係」への関心を共有しつつ、学際研究を模索し推進する実験装置であった。
パーソンズは、学部長として同僚と共に四領域を統合するため、不可欠な共通の用語や概念を解説するテキストを書き上げ、学生や院生を教育するための新しいカリキュラムを編成した。比較制度論とシステム論を枠組とする「社会学6社会制度」の講義は、1年間48回の講義と週一回の長時間の討論を、パーソンズを含む16名の専門家が担当するオムニバス・コースであったが、最終的にはパーソンズが1人で40年間担当し続けた。また、学部の2年生から3年間にわたりチューター制度を導入し、学生の教育段階に応じた個人的指導を充実させた。大学院は博士課程に特化し、博士論文提出の資格条件を満たした院生は、研究所に出入りすることが許された。研究所では、財団や政府など外部からの委託調査で資金を得て、様々な調査研究が進行していた。院生はそこで、研究者の報告や助手の仕事を通じて調査の実際を学び、学部で学んだ理論と方法論の応用や調査実証の訓練を受けた。
このように学部と研究所の連携が、優秀な研究者の苗床となり、彼等が米国全土の大学や研究機関に就職し、次々と学際研究の中心的な担い手になっていったことが、パーソンズ学の圧倒的な権威と影響力の源泉であった。ハーヴァード大学では、パーソンズの理論とストウファーの調査法が、相互の尊敬と友情を基礎に結合したこと、両者以外のファカルティも戦時中政府調査機関で学際的共同研究の実践経験を重ね、新学部設立以前からレヴェラーズという私的な研究グループを通じて討論を重ねた親密な間柄であったことから、自由でプラグマティックな雰囲気をもつ組織であった。
コロンビア大学でも1941年以降、ラザースフェルドの研究所とパーソンズの高弟であるマートンの社会学部とが連携し、大規模な調査プロジェクトを次々と実行することで、米国の経験的調査研究のメッカとなった。但しハーヴァード大学に比べると、より経験的な色彩が強く、院生からは社会学の訓練が徒弟制的だとの不満が漏れた。ラザースフェルドは研究所設立と調査受託の実績でマートンをリードし、学部と研究所の関係において、ハーヴァードとコロンビアは対照的であった。
開催案内
第54回招聘セミナー
米国の高等教育と研究組織
渡邉 康雄氏
京都女子大学・名城大学非常勤講師
日時:2006年1月18日(水) 午後2時〜4時
場所:名古屋大学東山キャンパス 文系総合館7階オープンホール
お問い合わせ: 夏目 <natsume@cshe.nagoya-u.ac.jp> (tel:052-789-5693)
※セミナーに出席を希望される方は、セミナー当日までに<seminar@cshe.nagoya-u.ac.jp>宛へご連絡下さい。(準備等の都合のためであり、必須ではありません。) セミナーは研究者、教育関係者、教育機関の事務担当者、学生(大学院生・研究生・学部生)、社会人など多くの方の参加を歓迎しております。 また、セミナー開催情報メールサービスも是非ご利用下さい。