コラム:いい教科書とは?

 最近、いい教科書を見つけました。それは、イギリスの公開大学で発行している生物学教科書『神経生物学』(Robinson, D., Neurobiology, The Open University)です。読むのに時間はかかりますが、文系出身のわたしが楽しめる内容ですし、読み進むうちに自分もやってみようかという蛮勇がわいてきます。

 なぜ「いい教科書」なのか。その最大の理由は、このテキストの序文に述べられている目的が具体的に実現されているからです。それは以下のとおりです。

 「脳と行動の研究は実験科学です。そのことは観察資料の蒐集、観察資料を説明する作業仮説の形成、その作業仮説を検証する実験の実施という手順に参加するということです。本書全体を通して、科学的探究の過程にはさまざまな面があることを強調すること、そして本文の中に質問を挿入することで皆さんを演繹的に考えるプロセスに引き入れることを意図しています。本書の主要な目的は、行動と脳の科学に応用された科学的方法を理解することにあります」。

 この目的を達成するために、以下のような編集方針に沿って、学習者中心の哲学がコストを惜しまず実行に移されています。

    1. 学習者自身の責任で読み進められるように編集・作成されている。
    2. 各章の主題の理解に生物分野の専門知識が前提とされていない。
    3. 学習者の理解と記憶を促したいテーマを論じている場合には、本文中に□印で質問を行い、■印で答えを述べる、というパターンを挿入する。
    4. 章末にはそれぞれ必ず要約の節と学習目標を列挙した節を設け、それにつづけてその目標が達成されたかを自己評価させる問題文を提示している(解答は巻末にまとめて提示)。
    5. キーワードはすべてゴシック書体にして見やすくし、巻末の用語解説で改めて説明を行っている。
    6. 資料はオリジナルソースから利用し、適宜わかりやすい図表にしている