マスメディアとつきあうEnglish
自分からコンタクトを取る
1 自分から連絡をとらないと始まらない
自分が広く社会に発信する研究成果を有していると確信していたとしても、残念ながら多くの場合はジャーナリストから取材を受けることはないでしょう。そのことをマスメディアに見識がないからだと言っても仕方がありません。多くの優れた研究はマスメディアにおいて報道されないという事実を認識しましょう。それはジャーナリストの責任ではありません。ジャーナリストは、広く社会に発信すべき価値のある科学の内容を日々探していますが、うまく見つけることができないからです。
マスメディアとのつきあいを始めるための第一歩は、科学者自身が踏み出す必要があります。実際にテレビや新聞に登場する大学教員の中には、研究成果に関するプレスリリースを定期的に行っていたり、ジャーナリストに直接的に情報提供したりする教員も少なくありません。
マスメディアに報道されるには、あなたの継続的な努力が必要になります。ここで、継続的な努力と記したのは、努力が毎回報われることはないからです。マスメディアでスペースをとるのは、その他のさまざまなニュースとの競争に勝たなければならないため容易ではありません。メディアに取り上げられる可能性を高めるためには、マスメディアにおいてどのようなニュースが優れているのかを理解し、ジャーナリストとどのようにコンタクトをとればよいのかを理解しておくことが求められます。
2 優れたニュースとは
あなたが重要だと考えることは、マスメディアや社会の一般の人たちが重要だと考えることは必ずしも一致しません。あなたが社会に広く知らせたいと考える科学の内容が、マスメディアにおいて優れたニュースであるかどうかを見極める必要があるでしょう。以下の観点から、優れたニュースであるかをチェックしていましょう。
社会の多くの人々に身近な問題に感じられるものか
優れたニュースの多くは、多くの人々の知識や生活に関連した意味を持つ必要があります。そのため、あなたが科学の内容を伝える際には、多くの人にとって身近な問題に感じられるように表現することが求められます。たとえば、「○○がつくった仮説がようやく実証された」という表現より、「○○に含まれる△△という物質が人体に有害である」という表現の方が、マスメディアでは求められています。薬学、栄養学、生物学、地震学などは、研究内容自体が身近な問題と感じられやすいので、報道価値の高い分野と言えるでしょう。しかし、物理学や化学のような理論研究の科学者の中でも、自らの研究を関連する企業と結びつけたり、科学教育の問題と結びつけたりして、多くの人々が身近に感じられるような努力をしていることにも着目しましょう。
最近の出来事に関連があるか
ここで言う最近の出来事は、ノーベル賞の受賞のような出来事だけではなりません。たとえば、異常気象、特定の種の大量発生、疫病の蔓延などの出来事があると、その対象分野について世間の注目が集まります。あなたが、自身の科学の内容を何らかの出来事と関連づけることができると、その報道価値は高まります。出来事は必ずしも現実の世界のものに限りません。世間でブームになっているものがあれば、科学を扱う映画や小説などでも問題ないでしょう。重要な点は、あなたの話す内容がタイムリーだという印象を与えることです。
あなたの科学の話をおもしろいと聞いてくれる人がいるか
優れたニュースであるかをチェックする最も簡単な方法は、実際にあなたの周りにいる科学者でない家族や友人にあなたの科学の話をすることです。また、大学1年生対象の授業を担当しているのならば、授業中に話してみてもよいでしょう。おもしろいと聞いてくれる人がどれくらいいるかが、あなたの話の報道価値を表していると言えるでしょう。
3 プレスリリースを行う
優れたニュースを有していると確信したら、マスメディアにコンタクトをとりましょう。あなたが特定のジャーナリストと知り合いでなければ、プレスリリース(報道発表)を行いましょう。プレスリリースとは、報道機関向けにファックスやeメールで送る短い広報用資料です。研究者から寄せられたプレスリリースからメディアは取捨選択し、多くの場合さらなる取材を経て、編集して記事として配信します。あなたの所属機関や部局に全体のプレスリリースの機会があれば、それを利用することも検討できるでしょう。
ジャーナリストは短い時間の中で、さまざまなプレスリリースの資料を目にするため、あなたの資料をジャーナリストに注目させるには工夫が必要です。プレスリリースで求められる文章は、科学論文に求められる文章とは異なります。基本的には、ジャーナリストが最低限の加工で要点をまとめられるような資料を提供することが重要です。つまり、最初からニュース形式に近い形でつくるということです。
具体的には、以下のチェックリストのポイントに注意して書いてみましょう。また、プレスリリースをホームページ上で行っている機関も増えてきました。海外では米国科学振興協会によってプレスリリースをデータベース化したEurekalert(http://www.eurekalert.org/)というサイトがあります。各分野のプレスリリースの資料を見ることができるので、あなたがプレスリリースの資料を作成するときに参考になるでしょう。
プレスリリース用資料のチェックリスト
- 自分のニュースが重要であることを印象づけられているか
- 最初の一文で注目を引くような工夫がなされているか
- 最も重要な点が、最初の段落に含まれているか
- 最も重要な点、研究の目的、結果、インプリケーション、その他の必要な情報の順で書かれているか
- A41から2枚で、文章は30行以内に書かれているか
- 早読みできるよう、パラグラフ、見出し、キーワードが配置されているか
- 内容の理解を助けるような図や写真があるか
- 文章に飛躍がなく、具体的で明確であるか
- 一番上に、記事差し止め期日(それ以前にはニュースを発表することができない日)が書かれているか
- 一番下に、住所、電話番号、電子メールなどの連絡先が書かれているか
プレスリリース用資料が完成したら、その後の展開について考えておきましょう。実験装置の見学に招待するなど、ジャーナリストとどのような打ち合わせをするかのいくつかの選択肢を提案できるとよいでしょう。また、研究に関する詳細な記述、論拠、例、キャプションつき写真、映像などをセットにした資料を準備しておきましょう。それらは、ジャーナリストの仕事を楽なものにするだけでなく、あなたの科学の内容を社会に正確に伝えることにも役立ちます。
ただし、プレスリリースを送ったからといって、それが記事になることはめったにありません。過大な期待は禁物です。