逐語録を作る
データをまとめる準備として、逐語録を作ります。逐語録は、インタビュー中の会話を録音したものを聞いて、テキストにしたものです。逐語録を作る際は、次の点に気をつけます。
- インタビュー後すぐに作成する:逐語録はインタビューから24時間以内に作成するようにします。時間がたつと、インタビュー中に自分の中に生じた思考や感情を忘れてしまいます。これらはその後の分析や解釈の質を左右するため、逐語録の作成にはすぐに取りかかりましょう。
- 発言をまとめない:逐語録はできるだけ話されたままの言葉で作ります。「えーと」「あー」などの発言やしばらくの沈黙なども、そこで相手が答えを深く考えたり悩んだりしている場合には、逐語録でわかるように書き起こします。
- 意味がありそうな部分をマークしておく:逐語録を作成しながら、後の分析で重要な意味がありそうだと感じた部分に印をつけておきます。後から見直す際に、整理しやすくなります。
- 完成した逐語録を何度も読む:逐語録を作成したら、分析や解釈を始める前に、逐語録を何度か繰り返し読んでみます。読む中で、逐語録のテキストをいくつかの塊に分けられることに気づくでしょう。
- データはバックアップを取る:逐語録を作ったら、テキストデータをリムーバブルメディアやクラウドストレージなど、複数の場所にコピーしておきます。作業中にデータが壊れた際に容易にリカバリーすることができます。
テキストにコードをつける
コード化の作業では、「Excel」などの表計算ソフトを使うと便利です。標準的なコード化の方法は次の通りです。
- 連番・語り・見出し・要約・コードの列を作る:後で似たコードをまとめた際に、連番をつけておくと話の順序がわかりやすくなります。
- 発話を小さな塊に分ける:話の最低限のまとまりを作って「語り」のセルに入れます。
- 見出しをつける:語りの内容を簡潔に表現する見出しをつけます。
- 先行研究との類似点や相違点をメモする:語りや見出しを説明できそうな文献の知識をメモします。
- 語りを説明する概念をコードに書く:語り・見出し・メモから、語りを抽象化して表せるキーワード、ラベル、概念をコードとして記入します。先行研究で使われた概念を使って書けると、より望ましいでしょう。このコードは暫定的でもよく、後から見直してつけ直すこともできます。また、複数のセルに同一のコードが入ることも多くあります。
コード化は、必ずしも全ての語りについてできるとは限りません。語りの塊を大きくすることで、コード化が容易になる場合もあります。うまくいかない場合は、語りのまとまりを変えながら解釈できないか検討します。
ストーリーラインにまとめる
一人目のデータをコード化したら、二人目、三人目とコード化を進めます。新しいコードが現れなくなったら、十分なコードが集まったと考えて、ストーリーラインにまとめる段階に移ります。その基本的な手順は、次の通りです。
- 類似したコードをまとめてカテゴリー名をつける:コードだけを書いた付箋紙を作って、KJ法※で分類しても良いでしょう。
- カテゴリー間の因果関係を画く:時間軸の中で先行する出来事と後に起こる出来事に注目しながら、カテゴリー間の関係を図に表してストーリーラインにします。
- テーマに対する仮説になり得るかを検討する:ストーリーラインから言えることが、先行研究で言われていることとどう違うのか、新しい仮説となり得るかを検討します。また、あまりにも当たり前・常識的すぎるストーリーラインとなっていないかを振り返ります。
- KJ法:コードだけを書いた付箋紙の中から、似たものをいくつかのグループにまとめ、それぞれのグループに見出しをつけます。その後、グループ間の相互関係・包含関係を図に表し、グループ間の関係をまとめます。
他の人の力を借りる
コード化やストリーラインづくりは、取り組むテーマに関する知識が十分でないと、偏ったり誤ったコード化をすることがあります。可能であれば、テーマに関する知識を持つ他の人の協力を得て、同じデータについてコーディングをしてもらいましょう。もし、同様のコードやストリーラインができるなら、その結果は妥当性の高いものであると言えます。逆に、同じ結果が得られない場合は、解釈に必要な知識や理論を補う必要があります。
- 推薦文献
- 谷富夫・山本努(2010)『よくわかる質的社会調査 プロセス編』ミネルヴァ書房.
- 谷富夫・芦田徹郎(2009)『よくわかる質的社会調査 技法編』ミネルヴァ書房.
- 発行|
- 名古屋大学教養教育院 & 高等教育研究センター
- 初版|
- 2018.3.20
- 作成|
- 中島 英博