レポートの構成

小説を読み、作中で起こる出来事がそれぞれどのような出来事で、どのような順番で起こるのかを書き表すならば、その小説の筋書きを作ることができます。逆に小説を書く場合、これらの筋書きを最初に決めておき、それにしたがって全体に文章を追加していけば、書きながら考えるよりもずっと簡単に書き上げることができるはずです。レポートも筋書きを最初に作成し、それに沿って書いていけば、効率よく書き進められるだけでなく、全体が整然としたものになるはずです。小説の筋書きに対応するような、(a)レポートにどのような情報を書くか、(b)各情報をどのような順番でどれくらい書くのかをまとめたものを、「レポートの構成」と呼びます。

学術的資料の読み方とまとめ方を知る」で、論文や専門書を読むときは、全体の主目的と各部分の目的(副次的目的)を確認しながら読み進むことが重要だと述べました。レポートの構成を考えるときは、全体の主目的と副次的目的をまず設定して、それに対応する情報をどのような順番で配列するのかを考えます。次に、各情報をどれくらい書くのかも、大体で良いので考えておきます。レポートには、たいてい文字数やページ数などの「長さ」が設定されています。この長さの中に、必要な各情報を必要な長さで収めなければいけません。

レポートの構成要素

レポートの主目的は、多くの場合「リサーチ・クエスチョンに対する特定の回答を合理的に立証すること」です(他の主目的が設定されている場合もあれば、特定のリサーチ・クエスチョンが設定されていることもあります)。したがって、レポートの構成には最低限、以下の情報を書く必要があります。

  • リサーチ・クエスチョンを設定する
  • リサーチ・クエスチョンに対する特定の回答を立証するための議論を行う
    (根拠や証拠を記述する)
    (回答を記述する)
    (挙げた根拠や証拠がどのように回答を合理的なものにするのかを記述する)

さらに、主目的以外に副次的目的をレポートは持っています。例えば、以下のようなものです。

  • リサーチ・クエスチョンの背景、重要性を解説する
  • リサーチ・クエスチョンに対する回答の評価基準を設定する
  • 実験、調査を設計し、説明する
  • 実験、調査結果を分析し、報告する
  • 資料や関連研究をまとめる、解説する、評価する

これらの副次的目的に対応する情報も、レポートの中に書き入れる必要があります。このように、レポートに何を書くのかは、主目的、副次的目的をどのようなものにするかによって決まります。どのような副次的目的を設定するのがよいか決めるには、以下のような観点から考えてみてください。(a)主目的を達成するのに、どのような他の目的を達成する必要があるか、(b)主目的以外に自分が書きたい、強調したい点はなにか、(c)読者の理解を助けるために、何を書いたほうがよいか、という観点です。特に、(c)について、「レポートの類型と作成プロセスを知る」で述べたように、レポートを書く場合、その授業を受講する前の自分自身や友人が読者だと想定してみるのがよいかもしれません。そうした読者の理解を助けるために、どのようなことを書いたほうがよいのかを考えてみてください。

構成要素を配列する

レポートの主目的、副次的目的を決め、どのような情報をレポートに書き入れるかを決めたら、それをどのような順番で、どのような長さで配列するのかを決めます。もちろん、重要な情報ほど長いスペースで丁寧に書き込む必要がありますし、重要度の低い情報はそれほど長く書く必要はありません。長さはだいたい、1つの副次的目的に対応する情報の重要度が高いならば1つの節全体をそれに当て、重要度の低い情報は幾つかをまとめて1つの節に収めると考えればよいです。その上で、より細かく構成を考えたい場合、各節にパラグラフを幾つ配列するのかを考えてみてください。

パラグラフとは、日本語の「段落」とはやや異なり、一つの目的に対応した文章のまとまりの単位です。したがって、目的が異なる情報を書くときは、パラグラフを変えることになります。レポート全体の主目的と各部分の副次的目的を細かく決める場合、それらの目的に各パラグラフを対応づけ、構成の段階で全てのパラグラフにどのような情報を書くかを決めることになります。そこまで細かく構成を行わない場合でも、最低限、各節にどのような副次的目的を対応させ、どのような情報を書くのかは決めておいたほうが良いです。

レポートの構成
レポートの構成

アウトラインを作成する

アウトラインは、論文やレポートの構成要素とその配列を具体的に記述したものです。構成を考えるだけでなく、アウトラインという形で書いて残しておくと、レポートの執筆がより効率よく進みます。理想的には、アウトラインに情報を足していくことで、全体を書き上げることができるからです。

アウトラインを最初に作る際は、各節にどのような情報を収めるのかをまとめます。先に述べたように、さらに細かい構成を考える場合、各パラグラフでどのような情報を書くのかまで考えます。各節と同様に、各パラグラフも一つの目的をもった文章のまとまりです。論文で何をやっているのかを読者に理解しやすくするためには、パラグラフの目的(そのパラグラフでやること)と強調点を具体的に記述する、あるいは、少なくともそれが分かるような文が含まれている必要があります。これを「トピックセンテンス」と言います。多くの場合、パラグラフの冒頭(ないし最後)に置かれることが多いです。アウトラインはこのようなトピックセンテンスを予め考えて記しておき、実際にレポートを執筆するときに、それに情報を足して各パラグラフを書いていくのが効率的です。また、レポートのどこでどの文献を参照、引用するかも構成の段階で考えておき、アウトラインにも記しておくと、よりアウトラインが具体的になります。また、図や表をレポートで用いる場合、先にどのような図や表を作るか考えておき(実際に先に作成してもよいです)、それをレポートのどこに入れ込むのがよいかアウトラインに書き込むのもアウトラインを具体化し、全体の執筆を効率的にする方法の一つです(図表の作成については、「名古屋大学生のためのアカデミック・スキルズ・ガイド プレゼンテーション資料をデザインする」も参考にしてください)。

構成を考え、具体的にアウトラインを作れるようになるのは、調査・研究がかなり進んだ後です。実際には、調査や研究がある程度進んだ後に、両方を同時にやりながら調整してゆくことが多くなります。これは、構成を考える中でもう少し調査したほうがよい点がでてきたり、逆に当初予定していたよりも調査が進んだり、進まなかったりして、レポートの構成を考え直す必要性が生じるからです。

アウトライン
アウトライン

アウトラインから執筆へ

アウトラインができたら、いよいよレポートの執筆に着手します(実際には、執筆開始後も、関連文献を読み返したり、データの再分析を行ったりして、アウトラインを修正する場合もあります。しかし、レポート執筆を開始する前に、アウトラインを極端に変更する必要がないくらいまで、調査を進めておくことが重要です)。

執筆に入ったときは、全体の設計図としてアウトラインを参考にしながら、レポートの各部分で何を目的として情報を書き記していくのかを意識してください。全体の主目的、各節の副次的目的だけでなく、各パラグラフの目的も明確にしておき、それを意識して書き進む必要があります。このような書き方を「パラグラフ・ライティング」と呼びます。以下、パラグラフ・ライティングを解説します。

パラグラフ・ライティング

パラグラフ・ライティングを行う場合、まず、各パラグラフが明確な目的を持っていることがわかるようにトピックセンテンスを、各パラグラフに置いてみてください。トピックセンテンスに情報を足していくことで、パラグラフを書き進んでいきます。このとき、パラグラフの構成(どれくらいの量、どのような順番で足すのか)が重要になります。読者が前後を読み返す必要なく、パラグラフの目的と強調点を理解できるようにパラグラフを構成することを心がけてください。読みやすいパラグラフの構成を考える場合、以下の点が重要です。

  • パラグラフの目的:目的(やっていること)が明確であり、その目的に関係ない情報を含んでいない
  • 強調点:自分が強調した点が明確である(繰り返し述べても良い)
  • 情報の流れ:情報の流れが明確になるように、接続詞を使う。しかし、接続詞を多用しないですむくらい流れがスムーズな方が良い
  • 情報の流れの一定性:論理関係、因果関係、抽象度、重要度などは固定した順序で記す

このうち、情報の流れ、情報の流れの一定性について、もう少し解説しておきます。

情報の流れ

アカデミック・ライティングでは、情報の流れを明確にするために接続詞を用います。ただし、接続詞を多用しないですむほど流れが明確という方が良いです。

例:カナダは多民族国家であると言われる。したがって、カナダには英語とフランス語を母国語として話す人々が共存しているのである。しかしながら、イギリス系、フランス系の人々が移住する前から多くの先住民がカナダには存在した。それゆえに、これらの人々もカナダに住む民族を構成している。

修正例:カナダは多民族国家であると言われる。カナダには英語とフランス語を母国語として話す人々が共存しているのである。しかしながら、イギリス系、フランス系の人々が移住する前から多くの先住民がカナダには存在した。これらの人々もカナダに住む民族を構成している。

順接の接続詞(したがって/よって/ゆえに/すると/そのため, etc.)は、使用しなくても済む場合が多くあります。関係性を強調したいときだけ使うようにしてください。順接の接続詞と説明の接続詞(というのも/なぜなら)は論理関係が逆なので、混在させると分かりにくくなります。例えば、「AだからB、BだからC」という内容を、「AだからB、CというのもB」と書くと分かりにくくなってしまいます。

情報の流れの一定性

論理関係だけでなく、因果関係、抽象度、重要度などが異なる情報を並べる際は、順番を固定しないと分かりにくくなります。

例1:世界には多数の国が存在する。日本はその中の一国である。日本を含む東アジア地域に位置するのは、中国、台湾、韓国などの国である。

例1修正:世界には多数の国が存在する。東アジア地域に位置するのは、中国、台湾、韓国などの国である。日本はその中の一国である。

例2:最初に起きた出来事は、ドイツのポーランド侵攻である。その後、ドイツはロシアにも侵攻を試みる。そのわずか前に、フランスにも侵攻している。

例2修正:最初に起きた出来事は、ドイツのポーランド侵攻である。その後、フランスにも侵攻している。そして最後に、ドイツはロシアにも侵攻を試みる。

パラグラフ・ライティングができると、レポートが格段に読者に分かりやすくなります。下のパラグラフは、左側がパラグラフ・ライティングを行っていないもので右側が行ったものです。両者を比較して、右側はパラグラフの目的が明確であり、しかもパラグラフ全体が理解しやすいことが分かるはずです。右側の下線を引いた文が、トピックセンテンスになります。

パラグラフ・ライティング
学生への推奨文献
石黒圭(2016) 『「接続詞」の技術』、実務教育出版.
佐渡島沙織・吉野亜矢子(2008) 『これから研究を書くひとのためのガイドブック』、ひつじ書房.
野田直人(2015) 『小論文・レポートの書き方 パラグラフ・ライティングとアウトラインを鍛える演習帳』、有限会社人の森.
発行|
名古屋大学教養教育院 & 高等教育研究センター
初版|
2019.3.25
作成|
笠木 雅史