名古屋大学 高等教育研究センター

第48回客員教授セミナー フランスの大学教員はいかに養成されるか 大学教員準備教育センターの経験 サイード・ペヴァンディ　氏 パリ第８大学准教授 2009年9月4日（金) 15:00〜17:00 東山キャンパス文系総合館5階509会議室

講演要旨

フランスの大学では、教育に対する評価は高いとは言えない。研究が最も重要な機能とみなされている。専門分野の知識とその知識を学生に伝える能力の間には関連性があると見なされ、教員採用の際には主に研究者の知識と質、学術的な研究業績が重視される。研究者のキャリア展開は、研究にのみ基づくという状況である。

１９８９年に、フランス高等教育システムに導入された高等教育教員入門教育センター（CIES）は、選抜された優秀な大学院学生に一定の研修を与えることによって、将来の大学教員を準備しようという革新的なものである。大学教員職への準備教育制度は「モニター制度」と呼ばれ、現在１４の高等教育教員入門教育センターが存在し、将来の大学教員に対して研修を行っている。

対象者は、特別奨学金を支給されている優れた大学院博士課程の学生から選抜され、モニターと呼ばれる。自分の研究と並行して一年に６４時間の教育的活動を行わなければならず、たいていは学部１、２年の学生を教えている。また、３年間の契約期間中、毎年１０日間の研修受講を義務づけられている。

モニターに対して行われる研修の方法は、セミナー、カンファレンス、ワークショップなど、CIESごとに多様な形式で行われる。研修を担当するのは教育学部、心理学部、社会学部、経済学部の教員、図書館長などである。研修は大学と高等教育システム、フランスにおける研究の組織化、研究者・教師としての教員、学生の多様性、学生の学び、学生の評価などを含む５つの領域でなされている。また、CIESはこれとは別に、教育と評価の実践に関するワークショップを実施している。

モニターに関する調査の実施によって明らかとなったのは以下の点である。研究と教育のつながりについて、モニターは教育活動を有意義なものと感じながらも、大学では評価されず、研究と出版物がアカデミックなキャリアにおいて最も重要であることを意識している。学生でありながら教師でもあるという経験は、モニターの専門職としての新しいアイデンティティを形成するのに役立っている。また、モニターは教育する経験のなかで多くの問題に直面している。教え方や学生の評価方法に関して悩んだり、教員が個人主義的で教授法についての議論等を行わないことに不満をもったりしている。モニターは「新任教員」として新入生を教えなければならないという点で問題を抱えるが、学生との年齢差が少ないにも関わらず、学生とよい関係を築いている。モニターと学生の年齢が近いことには親密さが生じやすいという利点があり、このことによって良好な関係がもたらされているのである。

調査研究によって、モニターが大学教育に関する学習経験におおむね満足していることは示されたが、CIESの取り組みの影響力は限定的なままである。取り組みが２０年行われてきても、FDが展開されるまでには至っていない。教授法やFDへの影響力が実際に生じるにはあと数年待たなければならないだろう。

開催案内

第48回客員教授セミナー

講演題目

フランスの大学教員はいかに養成されるか

―大学教員準備教育センターの経験―

講演者

サイード・ペヴァンディ　氏（パリ第８大学准教授）

日時

2009年9月4日（金) 15:00〜17:00

場所

東山キャンパス 文系総合館 5階 509会議室

講演概要

フランスの大学では、大学院生の中から選抜された者を特別講師（モニター）として雇用し、実際に授業を担当させている。 応募の条件は、大学院博士課程に在籍中であること、選抜制の特別研究奨学金を受給していることである。 数日間の研修を受けつつ、年間64時間の授業を担当している。

本セミナーでは、彼らを対象に行ったアンケートの結果などをもとに、フランスで大学教員がいかに養成されるかを明らかにする。 特別講師として彼らが実際にどのような体験をしているか、大学教員職に対してどのような感想を抱いているか、大学の教育活動に対していかに対処しているかを明らかにする。 若き大学人たる彼らが、いかにして大学教員としての職業上のアイデンティティを獲得しているのか、教育担当者として研究と教育の結合にいかに努力しているかについても言及する。

• 本セミナーは英語で行います（通訳なし）

お問合せ先

久保田　祐歌

info@cshe.nagoya-u.ac.jp

Tel:052-789-5696

ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。