第49回客員教授セミナー 大学院における共通教育 その理念と現実 小林 信一 氏 筑波大学大学研究センター教授 2009年10月1日(木)16:00〜18:00 東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール
講演要旨
大学院における共通教育が注目されるようになってきた背景には、第1に、バイオ、ITを中心とする学問・科学技術の革命的変化、学際指向、イノベーション指向の高揚などがある。 こうした変化は、大学院生に対して、広範な学問・科学技術に対する理解を要請するだけでなく、他分野の研究者らとのチームワークやコミュニケーション能力の育成を要請する。 また、イノベーション指向は、MOT(技術経営)などの知識の習得を要請する。
第2に、博士の就職難は博士教育の社会的レリバンスを問い、その結果として大学院は、博士教育の改革に関するポリティカルな圧力を受けることになる。 経済界、政府は改革を求めるメッセージを発し続ける。 大学院レベルの共通教育へと向かう社会的期待も少なくない。
第3に、これらの帰結として「博士」そのものの意味の変質がある。 すなわち、「博士」はアカデミアへのパスポートにとどまるものではなく、知識社会における多様な知的職業へのレディネスを示すものへと転換しつつある。 このため、博士の人材育成も伝統的な徒弟制モデルから、知識社会における多様な知的職業への導入・接続を意識した多様な取組みへの転換を要請する。
筑波大学では、2007年の試行を経て、2008年度に大学院共通科目が導入された。 2009年には、生命・環境・研究倫理(6科目)、研究マネジメント力養成(5科目)、情報伝達力・コミュニケーション力養成(9科目)、キャリアマネジメント(5科目)、大学院生としての知的基盤形成(10科目)、身心基盤形成(8科目)の計6群43科目のほか、分野共通性の高い研究科定期開講科目セレクション(10科目)が開設されている。
基本的フォーマットは、2日分の集中講義で1単位とし、院生が受講しやすい時期(土曜日や休業期間など)に開講する、20名程度の受講生を前提とする、などである。 外部講師、多様な分野の院生同士、留学生、社会人学生との多面的な交流も副次的効果として期待している。 もともと現場の教員のボランタリーな活動が全学的な活動へと草の根的に展開したこと、体育、芸術、図書館学などユニークな分野を有する強みを活かして、それぞれの立場から大学院生のスキルアップを目指した多彩な科目を提供していること、などが特色である。
草の根的で外部資金も利用していない点では、持続可能性が高いと思われる。一方では、科目を体系的に展開、充実させようとしても、ボランタリーな取組みであるために、十分な資源がなく容易ではない。学生たちの参加意欲は高い。さまざまな問題に直面しつつも、通常のコースワークや研究室ゼミなどとはひと味違ったクラスが展開している。
開催案内
第49回客員教授セミナー
- 講演題目
- 大学院における共通教育
- ―その理念と現実―
- 講演者
- 小林 信一 氏(筑波大学大学研究センター教授)
- 日時
- 2009年10月1日(木)16:00〜18:00
- 場所
- 東山キャンパス 文系総合館 7階 オープンホール
講演概要
大学院における共通教育が注目されるようになった背景には、 (1)学問・科学技術の革命的変化、学際指向などといった学問や研究活動の変化、 (2)博士の就職難に象徴される博士教育の社会的レリバンスに関わる問題とそれに起因する博士教育変革への圧力、 (3)これらの帰結としての「博士」の変質がある。 本講演では、筑波大学等の国内大学や海外大学の事例なども参照しつつ、大学院の共通教育の理念と現実を多面的に検討したい。
- お問合せ先
- 齋藤
- info@cshe.nagoya-u.ac.jp
- Tel:052-789-5696
- ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。