第119回招聘セミナー パーソナリティ特性研究の高等教育研究への展開 高橋 雄介 氏 京都大学大学院教育学研究科・助教 2013年11月15日(金)16:00〜18:00 名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館4F 412演習室
講演要旨
近年,心理学以外の諸分野において,パーソナリティ特性の持つ予測的妥当性に注目が集まっている。例えば,2000年のノーベル経済学賞受賞者であるジェームズ・ヘックマンは,パーソナリティ特性のことを非認知能力(non-cognitive abilities)と呼び,パーソナリティ特性は職業達成において認知能力(non-cognitive abilities; IQ)よりも予測力があることを示している(Heckman et al., 2006)。パーソナリティ特性は,ヒューマン・キャピタル(人的資本; 人間の持つ知識やスキルを資本として考える経済学における概念,Becker, 1964)のひとつであり,教育などによって介入され得るものとして考えるべきではないだろうか。
今回の報告では,高等教育研究に資するものとして,とりわけ,パーソナリティ特性と大学生の学業達成との関連に着目した。産業・組織心理学の分野では,学業達成と比較的近接するものとして,職業達成とパーソナリティ特性との関連が数多く検討されており,Barrick & Mount (1991)によるメタ分析は,big fiveというパーソナリティ特性のうち,勤勉性(誠実性, Conscientiousness)との間に頑健に正の相関が認められることを報告している(ρ=.20 - .23)。
ここで言うところの勤勉性・誠実性とは,具体的には,適切に自己制御する,仕事や目標のために計画的に行動する,他者に対して責任のある態度を取ると言った行動傾向の個人差のことである(John et al., 2008; Roberts et al., 2009)。
それでは,職業達成と相関の高い学業達成も同様に,勤勉性と正に相関するだろうか。ただし,学業達成とパーソナリティ特性との間にどのような関連が認められるか検討を行う際に問題となる点が2つある。1つ目は認知能力と学業達成との相関について,そして,2つ目は学業達成をどのように評価するかという点である。
大学生の学業達成をどのように評価するかは難しい問題ではあるが,先行研究ではGPAを採用する場合がほとんどである。その理由としては,内的整合性が高く(Bacon & Bean, 2006),職業達成や中等教育時点におけるGPAとの有意な相関もあり(Kobrin et al., 2008),一定程度の信頼性・妥当性を担保可能で,先行研究における知見の蓄積が十分であることがからメタ分析には向いていることが挙げられる。また,GPAと認知能力の間には中程度の相関が認められることから(Strenze, 2007),学業達成とパーソナリティ特性との間の関連について検討を行う際には,認知能力の影響について統制を行うことが必要である。
パーソナリティ特性・認知能力とGPAとの相関に関するPoropat (2009)のメタ分析によると,認知能力を統制したうえでの,勤勉性とGPAの相関はρ=.24であり,職業達成との関連と同程度に,正の相関が一貫して検出されることが分かる。
以上を踏まえて,今後は,高等教育場面においても,パーソナリティ特性,とりわけ勤勉性・誠実性を高めることに直接的もしくは間接的に寄与するような働きかけや仕組みを模索していくべきである。勤勉性とGPAの関連性の背後に仮定されるメカニズムや介入的な示唆を得るために,この関連性は何によって媒介され得るのかという点に関する研究が既に行われており,適切な目標の設定や努力調整などが介入対象の候補として挙げられている。また,大学生の学業達成はGPAによってのみ評価されるものではないので,これ以外の評価軸によって測定された学業達成とパーソナリティ特性の関連に関する研究も今後興味深いテーマとなり得るだろう。
開催案内
第119回招聘セミナー
- 講演題目
- パーソナリティ特性研究の高等教育研究への展開
- 講演者
- 高橋 雄介 氏
- (京都大学大学院教育学研究科・助教)
- 日時
- 2013年11月15日(金)16:00〜18:00
- 場所
- 名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館4F 412演習室
講演概要
近年、心理学以外の諸分野においても、パーソナリティ特性のもつ予測力に大きな注目が集まっている。例えば、2000年のノーベル経済学賞受賞者であるジェームズ・ヘックマンは、パーソナリティ特性のことを非認知的な能力と呼び、パーソナリティ特性は職業達成において認知的な能力よりも予測力があることを示し、教育等による介入の可能性について言及を行っている。今回の報告では、パーソナリティ特性に関する研究をいくつか例示しながら、これらの研究は高等教育研究に対してどのような示唆を与え得るのかという点について議論を行いたい。
- お問合せ先
- info@cshe.nagoya-u.ac.jp
- Tel:052-789-5696
- ご参加いただける方は、事前に上記メールアドレスまでご一報いただけると助かります。会場準備の都合によるものですので、必須ではありません。