第30回客員教授セミナー 時代が求める学習様式と大学教育改革が目指す学習様式は何が異なるのか 溝上慎一氏 京都大学 高等教育研究開発推進センター助教授 2005年12月20日(火) 午後2時〜 名古屋大学東山キャンパス 文系総合館7階オープンホール
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講演要旨
戦後わが国における大学生の人生形成ダイナミックスは、1990年代を境に大き く変貌したと考えられる。その推移の手始めは1960年代に見られたもので、おと な社会への適応を主とする「外」から「内」へのアウトサイドインの人生形成ダ イナミックスであった。それは、人類が共同生活を始めて以来、子ども、若者が おとな社会に「入る」という伝統的な人生形成ダイナミックスの近代版であった。 今日のように、「やりたいこと」「好きなこと」をもって職を得たりおとな社会 に入ったりするというダイナミックスは、一般的には考えられないことであった。
それが、本格的な消費主義社会の到来、おとなへの対抗文化の衰退、バブル経 済の崩壊による日本的社会の崩壊などにより、若者はおとなの価値観に必ずしも 依らず(また大人もそれを自信をもって示すことができず)、「やりたいこと」 「好きなこと」、つまり「内」なる世界からおとな社会(「外」)への参加をは かろうとするインサイドアウトの人生形成ダイナミックスが成立していくことに なる。
この時代的推移は、そのまま近代社会における啓蒙としての教育観が終演する 動きとも重なってきて、事態を複雑にする。つまり、急速に進展する近代社会を 引っ張った大人の権威はもはや失墜しており、今や大人から子ども、若者への上 から下への知識伝達図式は、あらゆる学校段階で破綻している。そんななか学生 に求められる新たな学習形態は、自らの頭で世界を見てものを考える知識構成型 の学習である。この学習力は、知識の基礎、基本をしっかり身につける基礎的学 習を土台としており、従来の学習形態からのドラスティックな転換というよりも、 むしろ発展形態といえるものである。
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しかしながらこの流れに反して、アカウンタビリティや経営的問題から、昨今 の大学教育では初等・中等教育では終焉したと見えるいわゆる「学校化」を勢い よく進めている。新しい時代を力強く生きる学生像は、自らの頭で世界を見ても のを考える学生のはずであるが、いま大学は学生をどのように育てるかをあまり 考えることなく、ひたすらしっかりとした教育体制づくりに勤しんでいる。
しかし、これは大学教育の基盤的体制を蔑ろにしてきた戦後わが国の大学教育 の付つけを払う期間として意味があり、報告者は重要なプロセスだと認識してい る。したがって、こうした基盤作りがある程度成し遂げられた暁には、どのよう な学生の学習を促していくかが本格的に問われることになる。当日は、このよう な新しい時代に求められる学生の学習像について報告者の考え報告し、多様な現 場、専門を担うフロアーとの具体的な議論により摺り合わせをおこなった。
開催案内
第30回客員教授セミナー
時代が求める学習様式と大学教育改革が目指す学習様式は何が異なるのか
溝上慎一氏
京都大学 高等教育研究開発推進センター助教授
日時:12月20日(火) 14時から
場所:名古屋大学東山キャンパス 文系総合館7階オープンホール
いわゆる近代社会における啓蒙としての教育的ダイナミックスは、わが国ではほぼ終焉を迎えたといえる。急速に進展する社会を引っ張った大人の権威は失墜し、もはや大人から子ども、若者への上から下への知識伝達図式は、あらゆる学校段階で破綻している。そんな中学生に求められる新たな学習形態は、自らの頭で世界を見てものを考える知識構成型の学習である。
しかしこの学習力は、知識の基礎、基本をしっかり身につける基礎的学習を土台としており、従来の学習形態からのドラスティックな転換というよりも、むしろ発展形態といえるものである。アカウンタビリティや経営的問題から、昨今の大学教育ではいわゆる「学校化」が進んでおり、自ら学ぶ学生を育てる営みは放棄してしまっているように見える。当日は、学生に求められる新しい時代の学習課題と、昨今進行する大学教育の現状とのすりあわせを検討したい。
お問い合わせ: 近田 <chikada@cshe.nagoya-u.ac.jp> (tel:052-789-5692)
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