既存のデータを調べる
データの収集に取りかかる前に、あらためて既存のデータを十分に調べましょう。自分ではデータがないと考えているものの、(1)求めるデータが掲載されている報告書等の存在を知らない、(2)求めるデータは定義や解釈を工夫することで既存のデータで表現できるという2つの可能性があります。まずは、周囲の学生・先輩、大学院生や教職員、図書館スタッフに相談してみましょう。
質問紙を作る
それでも求めるデータがない場合は、質問紙を用意し、答えてもらうことでデータを集めます。質問紙の用意で特に重要な点は、どのような言葉で質問を書くかと、どのような尺度で答えてもらうかの2つです。
求めたい回答が得られる言葉で質問する:質問の言葉によって回答の結果が変わります。「将来起業したいと思いますか」と聞かれても、起業の意味がわからなければ回答者は正しく答えられません。また、将来は卒業直後なのか、卒業後10年以内なのか、職業生活をリタイヤするまでのいずれかの時点なのかもあいまいです。他にも、「起業したいと思いますか」と「自営業に就きたいと思いますか」では、回答者が異なる意味を見出すでしょう。そのため、自分が本当に知りたいことは何か、それを他者に正確に知ってもらうにはどのような言葉で質問したら伝わるのかを慎重に検討する必要があります。
求めたい回答が得られる答え方を用意する:「起業したいと思いますか」に対して、「はい」「いいえ」の2択で答えてもらうのと、「必ずしたいと思う」から「全く考えていない」までの5段階で答えてもらうのでは、得られるデータが異なります。尺度は荒すぎると興味深い結果が得られませんが、細かすぎると回答者の負担が増えたり尺度間の差の意味づけが難しくなります。意見や考えを尋ねる質問では、5段階程度がよいでしょう。また、できるだけ客観的な数字で答えられるよう質問をすることも重要です。「起業に関する本を何冊読みましたか」「起業セミナーに何回参加しましたか」などは、数値で回答が可能です。
質問紙の構成を知る
質問紙は、5つの要素で構成しましょう。
- 説明文:はじめに調査のタイトルと調査をする目的や意義を説明し、協力を求める依頼文を示します。
- フェイスシート:対象者の属性や行動・経験を聞く質問です。属性は、年齢、性別、学年、出身地、所属サークル、職業、年収、経験年数、子供の数、子供の年齢などがあります。行動・経験には、図書館へ行く回数、1週間の自主学習時間、1ヶ月に読む本の冊数、ジョギングで走る距離などがあります。
- 調査項目:質問紙の中心となる項目で、収集したいデータに関する質問を示します。次のような聞き方がありますが、集計後の分析に使いやすいのは直接法、2件法、評定法です。
- 直接法:センター試験で何点とりましたか? パソコンをいくらで買いましたか?
- 2件法:あなたには恋人がいますか?(①はい、②いいえ)
- 評定法:将来結婚したいと思いますか?(①全く思わない、②あまり思わない、③どちらでもない、④やや思う、⑤とても思う)
- 多肢選択法:結婚を決断する上で、重要と思うもの全てに○をつけて下さい(①性格、②年齢、③年収、④学歴、⑤健康、⑥外見、⑦趣味の一致、⑧価値観の一致)
- 順位法:結婚を決断する上で、重要と思うものを次の中から1位から3位まで3つ選んで下さい。(①性格、②年齢、③年収、④学歴、⑤健康、⑥外見、⑦趣味の一致、⑧価値観の一致)
- 自由記述:数値化や尺度化が困難なことを聞くために設けます。
- 終了文:アンケートの終わりに、調査協力への感謝を示します。
調査の対象と方法を決める
データの収集が必要と判断したら、調査計画を立てます。調査計画の中でも特に重要な準備は、調査の対象と調査の方法の2つです。
目的に合った調査対象を選ぶ:どのような集団について知りたいのか、その集団を代表するような回答者を抽出できるかという2点に気をつけましょう。「名古屋大学生のうちどれくらいの人が、将来起業したいと考えているか」を知りたいとしても、全ての学生を調査対象とすることは現実的ではありません。そのため、調査の対象者を抽出する必要があります。また、知りたいのは特定の学部の学生か、理系の学生か、全ての学生かによっても選び方が異なります。
たとえば、名古屋大学生の男女比は約7:3です。そのため、20人からデータを集めるなら男性から13人、女性から7人集めることになります。しかし、文学部の学生について知りたい場合、文学部学生の男女比は約4:6であり、集める人数が変わります。また、全学生の約3割は工学部の学生です。そのため、20人のうち工学部の学生が2人しかいない場合、名古屋大学の学生を代表しているとは言えません。
目的に合ったデータの収集方法を選ぶ:対象者から、どのようにデータを集めるかも検討します。確実に回答してもらうには、一人ずつ面接して対面で質問に答えてもらうとよいでしょう。しかし、お互いの都合を合わせるなど、多くの人を対象とするには時間がかかりすぎます。そのため、多くの場合、質問紙を配布して回答してもらい回収する方法になります。現在では、紙媒体だけでなくオンラインでも回答を集めることができます。
教員に相談する
調査の実施には、ここで示した以外にも重要な知見や技法が多くあります。そのため、調査を計画する前に調査技法をまとめた文献をよく読んでおきます。特に、尺度の作り方や調査対象の選び方には、知っておくべきより厳密な手続きがあります。
また、調査には文献だけではわからないことも多くあります。たとえば、質問の言葉を誤解することなく答えられるか、曖昧な言葉がないかは、実際に他の人に見てもらってフィードバックをもらうことが大切です。そこで、調査の準備では教員に積極的に相談するようにします。調査の後で自分が求めていたデータと異なっていたということが起こらないよう、調査の準備段階で教員のアドバイスを十分に受けるようにしましょう。
- 推薦文献
- 石村貞夫・加藤千恵子・劉晨(2009)『やさしく学ぶ統計学 Excelによるアンケート処理』東京図書.
- 発行|
- 名古屋大学教養教育院 & 高等教育研究センター
- 初版|
- 2018.3.20
- 作成|
- 中島 英博