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4:日々の授業を組み立てる
講義ノートがあるからといって、安心は禁物
万全の講義ノートを仕上げたといっても、安心は禁物です。その状態でいきなり授業に臨んだら、おそらくあなたは講義ノートに釘付けになって、思わぬ落とし穴にはまるかもしれません。毎回、授業の直前に最終確認のための時間(ごくわずかで十分です)をとるように心がけましょう。
内容を絞り込み、タイムマネジメントの発想をもつ
一回の授業は90分ですが、ロスタイムを入れると、実質は80分程度です。熱心な教師ほど、つい盛りだくさんの知識・情報を詰め込もうとして、最後は尻切れで終わってしまいがちです。ちなみに2限目の授業の場合など、どんなにすばらしい内容であっても、うかつに延長して昼休み時間に食い込むようなことになれば、図らずも食堂に並ばねばならない学生の怨嗟を買うことにもなります。
したがって、まず重要なことは、いかに基本的な内容を精選するかということです。受講者は専門家ではないので、過度の情報量はかえって彼らを混乱させてしまいます。思い切って枝葉を切り捨てて、本当に必要な内容だけを取り出すことを常に心がけておきましょう。いわゆる中学・高校の授業のような「百科事典型」の講義よりもむしろ、学生に問題意識を持たせ、自分で学習するための手がかりを与えるような授業を目指せば、講義時間に伝えられる以上の内容をコースに含ませることができるはずです。
もし、授業のスピードが遅くて残り時間が少なくなったら、展開部の一部をカットして対応しましょう。あらかじめ、カットしてもよい箇所をいくつか設定しておけば便利です。
一回分の授業を導入、展開、エンディングにわけて構成しよう
1回分の授業を、ソナタ形式のシンフォニーのように、導入部、展開部、エンディングに分けて構成してみましょう。詳しくは後で説明しますが、まずは授業時間を10〜20分、60分前後、10〜20分程度に配分し、それぞれのパートの構成を練るわけです。インパクトある出だしで始まり、展開部で盛り上げて、余韻のある印象的なエンディングへといざなうように「流れ」を作りましょう。
講義メモを作ってみよう
毎回の授業直前には、上記の時間配分に則った講義メモを作成してみましょう。当日分の講義ノートをもとに、カードに見出しを書き出して、「流れ」の最終チェックをするのです。10〜20分もあればできるはずです。
授業の主題・アウトラインを紹介する
大学の授業はたいてい、一週間に1回しかありませんから、前回の授業の記憶が薄くなりがちです。最初の数分間で前回の要点をまとめて、学生の記憶を解凍することが必要です。あるいは、学生の誰かを指名して、レビューさせてみるのもいいかもしれません。
今回の主題は何か、なぜそれが必要なのか、それを学ぶことで何が習得できるかを最初に明らかにしておくと、学生のモチベーションは高まるでしょう。何をやっているのか、何のための説明をしているのかわからない授業ほど、受講者にとって辛いものはありません。おすすめの方法は、
(1)まず黒板に「今日のメニュー」を板書する。
(2)ハンドアウトを配り、まず、その全体についてざっと説明をする。
といったものです。
主題にうまくつながるような問題提起・例示を行う
いきなり難解な理論から授業がスタートしたら、拒絶反応を示す学生が続出するでしょう。彼らをスムーズに授業に導入するための方法としては、主題に関わりをもつ問いや、具体例からスタートするやり方があります。たとえば、中東政治についての授業であれば、「なぜ米国はいつもイスラエルの味方をするのか?」、環境問題についての授業ならば、「あなたは愛知万博開催に賛成か?」などです。受講者にとって身近で、具体的なトピックスが望ましいでしょう。
いくつかのパートに分け、そのつど要点をまとめる
展開部は授業の中心となり、おそらく1時間前後に及ぶでしょう。学生の集中力を持続させるには、展開部をいくつかのパートに分け、それぞれの要点を明らかにし、つなぎ合わせていく作業が必要となります。事前に十分な構想を練っておくことが必要です。
教科書、参考書からは一定の距離をとる
展開部では、教科書や参考書の内容をどうやって取り込んでいくかが重要です。教科書に書いてあることをそのまま繰り返すだけならば、授業は平板になりますし、自分で読んでおけばいいということになってしまいます。むしろ、教科書から一定のスタンスをとって、これを客観的に評価したり、批判したりする立場を取った方が、授業の構図が立体的になり、学生も意見を持ちやすくなります。一方、買わせた教科書をあまり活用しないと、必ず学生から苦情が出るでしょう。できるだけ教科書、参考書を活用しながらも、これに依存しない、という形態が望ましいでしょう。
仮説と検証、問題提起と謎解き
仮説を設定・検証したり、「なぜ○○は△△△なのか」という問いをたて、クラス全員でその理由を探る謎解き型(問題解決型)の展開により、学生の関心を常にひきつけることが可能になります。重要なのは、こうした作業の一部でよいですから、学生に参加する機会を設けることです。教師がすべてを演じてしまわないようにしましょう。
対立する学説を取り上げる
授業の展開にメリハリをつける他の手段として、教師が自分の見解を明らかにした上で、これに反対する学説を取り上げ、それぞれの是非を学生に評価させる方法もあります。教師の持論はあくまでも多くの学説の一つであるという、相対的な認識を学生に与えることも場合によっては必要でしょう。
また、自分と異なる意見をもつゲストスピーカーを招くこともできるでしょう。教師同士でもよいし、大学人以外でもおもしろいかもしれません。学生にとっても、いつもと違う人の話が聞けることは新鮮ですし、意見と意見のぶつかり合いは刺激的でしょう。
最新の情報・知識を盛り込んだ実例を紹介する
教科書に載っていない最新の情報や知識を紹介してみましょう。学生にとって、教科書の情報は堅苦しくて、日常生活から縁遠く感じられるものです。具体的なケースを挙げて、授業で扱う主題が現実社会といかに密接に結びついているかを学生に実感させましょう。
自分の研究成果を紹介する
最先端の研究成果が教科書に反映されるには時間がかかります。たいてい、学生が学んでいるのは、一昔前の知識なのです。そこで、時には自分が研究者として取り組んでいる最新の研究成果の一部を紹介してみましょう。学生の知的好奇心を上手にくすぐるのです。
上手な気分転換を
展開部は長いので、途中で上手に気分転換を図る必要があります。休憩を入れたり、用意しておいた世間話やジョークを披露したり、ストレッチをしたりして、中だるみを防ぎましょう。
効果的なまとめ
残り10分〜5分になったら、今回の授業の内容をもう一回レビューしましょう。学生を指名して代わりにレビューしてもらってもいいでしょう。授業の最後は、
・学生に問いを投げかけて終わる。
・最初に提示した主題に対する結論を明示する。
・結論に関連した引用フレーズを取り出す。
などいろいろな方法が考えられますが、とにかく、一まとまりの話がきちっと終結したのだという印象を与えることが大切です。
次回予告・課題の提示
授業終了時に、次回の予告をします。前回の復習から始まり、次回の予告で終わるという循環型の授業システムをとることで、学生の記憶効率を高めることが期待できます。この方法はテレビドラマなどによって、学生の日常生活に浸透しています。
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