マスメディアとつきあう

ジャーナリストの役割を理解する

1 マスメディアはおそろしく強力である

みなさんが大学の中で授業を担当する場合、受講者は多くて300人程度ではないでしょうか。一方、新聞、ラジオ、テレビなどのメディアでは、一度に何百万人など極端に多数の聞き手に直接語りかけることになります。それはおそろしく影響力のあるものです。たとえば、テレビ番組である食品が健康によいということを伝えると、翌日から当面の間、スーパーマーケットではその食品が品切れになり、市場に大きな混乱をもたらしたというような話は、みなさんも聞いたことがあるのではないでしょうか。まずは、マスメディアの影響力の大きさを自覚しなければなりません。

しかし、影響力の大きさを恐れて、マスメディアから遠ざかるというのは、科学者として大きな損失を生むことになります。一般の人々にとって、科学の発見、問題は新聞やテレビなどのマスメディアに登場したときにはじめて事実になると言えます。科学政策に影響を与える立場にある政治家にとっても、科学に目覚めた中学生にとっても、マスメディアからの情報が、彼らの科学に対する態度に大きな影響を与えるでしょう。また、マスメディアは、人々の科学に対するイメージを形成するにあたって最も強力な方法です。このような貴重な科学の伝達の機会がなくなると、科学は多くの人からの理解や援助を得られなくなるでしょう。マスメディアは、社会と科学者をつないでくれる貴重な媒体であるということに気づくことが重要でしょう。

2 ジャーナリストと科学者の間にはずれがある

ジャーナリストに対して、科学をゆがめて扇情的に伝える者と考えてしまう科学者は少なくないでしょう。しかし多くの場合は、ジャーナリストと科学者の立場の違いを誤解しているからと言えるでしょう。ジャーナリストという立場の持つ関心や価値観を正しく理解しておくことが、科学者がマスメディアとうまくつきあうための基本となるでしょう。ジャーナリストの中にも、個人差はありますし、科学ジャーナリストか一般ジャーナリストかの違いはあります。しかし、以下に示すジャーナリストと科学者のずれは、あなたのジャーナリストに対する立場の理解を助けるでしょう。

ジャーナリストと科学者のずれ
  1. ジャーナリストは科学に解答と確実性を求めるが、科学者は、科学が蓋然的な仮説の集まりであること、成果を上げるには時間がかかること、社会が抱える問題への即座の解答は科学の能力を超えると思っている。
  2. ジャーナリストは画期的な発見をした科学者を一人の英雄として描きたがるが、科学者は科学を協同的で累積的な営みであると考える。
  3. ジャーナリストはコミットメントを求めるが、科学者は中立的な立場に身を置きたがる。
  4. ジャーナリストは論争を求め、科学者はコンセンサスを求める。
  5. ジャーナリストは印象的な短い言い回しのもつ力を重要視するが、科学者は重要なことを言おうとすると微妙かつ回りくどい言い回しにならざるをえないと思っている。
  6. ジャーナリストは常に締め切りを意識して急いでいるが、科学者は研究のもつ速度に依存している。
  7. ジャーナリストは販売部数や視聴率によって評価されるが、科学者は他の科学者から評価される。
出所:Carrada(2006), p.56を参考に筆者作成