科学コミュニケーションを継承する
この段階まで到達したあなたには、科学コミュニケーションの知識・スキルや人脈が、そうとう蓄積されていることでしょう。それらをぜひ次世代の研究者に伝えてください。
1 科学コミュニケーションの現場を見せる
科学コミュニケーションが研究者にとって大切な活動であることを印象づけられれば、成功といって良いでしょう。
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- 活動の現場に足をはこび、科学コミュニケーションに携わる人々、あなた自身、市民、プロコミュニケーターなどの姿をじかに見てもらう
- イベントの受付や会場係などのお手伝いをしてもらう
- イベントのあとに開催される懇親会で、市民と話すきっかけを作る(科学コミュニケーションにかかわる人々の思いや経験について、じかに聞き出せるようにサポートする)
- 科学コミュニケーションの多様性に思いをめぐらせるきっかけとなりそうな活動の場合は、あとからちょっとした解説をする
2 研究室の広報活動をとおして学んでもらう
研究室の活動の一環として、できることが多くあります。これまでの事例を見せたり、作り方の書籍・ウェブサイトといった情報を伝えたりして、何をすべきなのかイメージを持てるように手助けをしましょう。大事なことは、最終チェックをあなたがすること、できあがったものについての責任をあなたがもつことです。
- 研究室でできるトレーニング
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- 研究室の紹介ポスターをつくる
- ウェブサイトにのせる解説をつくる
- あなたの公開講座の資料を一緒に準備する
学術的コミュニケーションとの類似点も大切に
こういったライティングやグラフィック制作を学んだ人は、学会発表の仕方もしぜんと洗練されていくことが多いようです。学術的なコミュニケーションとの違いを強調するばかりではなく、どちらにも共通するような原則(文章は短く、全体の構造はすっきりと、など)を本人が発見でき、楽しめるような環境づくりが大切です。
3 専門家として市民に接する機会をつくる
科学コミュニケーション活動のお手伝いを重ねて、だいぶ様子が分かってきたかなと思ったら、つぎは専門家として市民のまえに立つ機会をあたえてみましょう。といっても、いきなり一人ですべてを背負うのは難しいものです。あなたが育てようとしている人は、学会などで専門家を相手に話すのですら精一杯の状況かもしれません。
- 1対1のコミュニケーションから試す
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- 説明員、解説員をしてもらう(研究室公開、ゲノムひろば、上野の森情報発信シリーズなどの機会を利用する)
- 事前に説明会をひらき、応対の基本を知ってもらう
- 答えにくい質問がきたなど困った様子が見えたら、周囲のスタッフが助けを差しのべる(その様子から、学ぶことも多い)
- ウェブ上で市民からの科学にまつわる質問にこたえてもらう
市民の視点からは学ぶことも多い
よくある例は、日常生活に根ざした素朴で鋭い視点です。いっぽう、科学的好奇心を共有できる場合もあります。自分では考えてもみなかったような質問でも、誰かほかの研究者がすでに取り組んでいることがあるのです。
専門家になる、ということの意味を考えるきっかけに
狭く深く究めようとしてきた人にしてみれば、市民の質問は専門外のことのように思えてしまうことがあります。ここから、社会で求められている専門家像に近づこうとする努力がはじまります。
- 複数相手のコミュニケーションやチューター役
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- ミニレクチャーを担当してもらうような機会を設けてみる
- 後輩にあたる研究者が一対一のコミュニケーションに迷ったときなどに指導、相談にのるようなチューターの役割を担ってもらう
- 企画運営にも巻き込む
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- 科学コミュニケーションイベントの企画をだしてもらう
- デザイン会社やマスメディアとの打ち合わせに同席してもらう(人的ネットワークの継承)
- プレスリリースの原稿をつくる
ともに科学コミュニケーションに携わる仲間だと思えるくらいまでになれば、トレーニングも最終段階。一緒に、またそれぞれに、活動をしてください。そしてぜひ、次の世代を育てる極意を継承してください。