1.3 学識とはどんな能力か
ここで言っている「学識」を「教養」と言い換えてもよいのですが、日本の大学では「教養」という語は、「専門」教育の反対語のように誤って使われてしまっています。そこで誤解を避けるために「学識」という語を使います。
ちょっと考えてみましょう。「あの人は教養がある」とか「あの人は学識豊かだ」と言うとき、そこにはどんな意味が込められているでしょうか。
(1)豊かな知識
まずは、「物知り」ということでしょう。学識には豊かな知識が含まれます。たしかに、物を知らないよりも知っていた方が豊かな人生を送ることができます。しかし、断片的な知識をたくさん詰め込んだクイズ王がいたとしても、それだけでは学識豊かとは言えませんね。ですから、これは最低条件です。重要なのは、そうした豊かな知識をどのように活用するかということです。
(2)知識と知識を関係づける能力
学識のあるなしは知識と知識を結びつける能力に現れます。たとえば、あなたが現代日本の「フリーター」問題を考えているとしましょう。そのとき、映画で知った1970 年代のヒッピーたち、落語で聴いた江戸時代の若旦那、本で読んだ古代ギリシャの哲人の生き方を連想し、それらの類似点と相異点はどこにあるのかについて考えを巡らせるのが学識ある人です。
(3)時間的・空間的に巨大な座標系
学識ある人がさまざまな知識を結び合わせることができるのは、頭の中に知識が雑多な寄せ集め状態としてではなく、しっかりした座標系に位置付けられて存在しているからです。そして、この座標系の軸が多様で、時間的・空間的にもスケールが大きいほど、その人は学識豊かな人です。
たとえば、「自分は何者か」を考えるときに、「名古屋大学の学生で偏差値はこれくらい」としか考えられないか、それとも、日本人の人口ピラミッドの中ではこのあたりに位置している、世界の中ではこういう役割を期待される国の一員だ、生物の歴史の中ではこんな特殊性をもつ種に属している、宇宙の中ではこういう場所に生きているぞ、といった考え方ができるかどうか。ここに学識の豊かさは現れます。
(4)科学的なものの考え方
あなたは物事を判断する時に、自分の思い込みやうわさ話、迷信などに左右されることはありませんか。21 世紀の「学識」には、科学的なものの考え方が不可欠の要素として含まれます。科学的な考え方とは、自分の先入観にとらわれずに、事実や真理などの科学的根拠に基づいて物事を判断することです。
あなたがじかに体験できる世界は限られています。宇宙の片隅にある地球の表面にへばりついて生きているし、電磁波のうちのごく限られた波長のものしか見ることができないし、記憶容量も無限ではないし、未来の予知能力もないし、透視能力もないし…。こんなあなたの直接体験の限界を突破してくれるのが、科学というものの考え方です。文系・理系にかかわらず、現代社会で生きていくためには、科学がもたらす事実を尊重する態度が求められます。
学識(スカラーシップ)とは「学ぶこと」そのものである
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