4.1 明日の授業の作戦を練ろう
4.1.1 講義ノートがあるからといって、安心は禁物
万全の講義ノートを仕上げたといっても、安心は禁物です。その状態でいきなり授業に臨んだら、おそらくあなたは講義ノートに釘付けになって、思わぬ落とし穴にはまるかもしれません。毎回、授業の直前に最終確認のための時間(ごくわずかで十分です)をとるように心がけましょう。
4.1.2 内容を絞り込み、タイムマネジメントの発想をもとう
熱心な教師ほど、つい盛りだくさんの知識・情報を詰め込もうとして、最後は尻切れで終わってしまいがちです。ちなみに昼休み前の授業など、どんなにすばらしい内容であっても、うかつに延長して昼休み時間に食い込むようなことになれば、図らずも食堂に並ばねばならない学生の怨嗟を買うことにもなります。
したがって、まず重要なことは、いかに基本的な内容を精選するかということです。受講者は専門家ではないので、過度の情報量はかえって彼らを混乱させてしまいます。思い切って枝葉を切り捨てて、本当に必要な内容だけを取り出すことを常に心がけておきましょう。いわゆる一方通行の「百科事典型」授業よりもむしろ、学生に問題意識をもたせ、自分で学習するための手がかりを与えるような授業をめざせば、授業時間に伝えられる以上の内容をコースに含ませることができるはずです。
もし、授業のスピードが遅くて残り時間が少なくなったら、展開部の一部をカットして対応しましょう。あらかじめ、カットしてもよい個所をいくつか設定しておけば便利です。
4.1.3 1回分の授業を導入、展開、エンディングに分けて構成しよう
1回分の授業を、ソナタ形式のシンフォニーのように、導入部、展開部、エンディングに分けて構成してみましょう。たとえば授業時間が90分とすると、全体を20分、60分、10分に配分し、それぞれのパートの構成を練るわけです。インパクトのある導入部で主題を提示し、展開部で主題を掘り下げて、エンディングで主題を確認する、というのはいかがでしょうか。
4.2 導入部は刺激的に
4.2.1 最初に授業の主題・アウトラインを紹介する
大学の授業はたいてい1週間に1回しかありませんから、前回の授業の記憶が薄くなりがちです。最初の数分間で前回の要点をまとめて、学生の記憶を解凍することが必要です。あるいは、学生の誰かを指名して、レビューさせてみるのもいいかもしれません。
今回の主題はなにか、なぜそれが必要なのか、それを学ぶことでなにが習得できるかを最初に明らかにしておくと、学生のモチベーションは高まるでしょう。なにをやっているのか、なんのための説明をしているのかわからない授業ほど、受講者にとってつらいものはありません。たとえば、
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黒板に「今日のメニュー」を板書する
- ハンドアウトを配り、その全体について説明をする
といったものです。
4.2.2 主題にうまくつながるような問題提起・例示を行う
いきなり難解な理論から授業がスタートしたら、拒絶反応を示す学生が続出するでしょう。彼らをスムーズに授業に導入するための方法としては、主題にかかわりをもつ問いや、具体例からスタートするやり方があります。たとえば、国際関係論の授業ならば、「日本は不景気なのに、なぜ途上国への援助額が世界一なのか?」、環境問題についての授業ならば、「あなたの街、ごみはどのように分別されていますか?」などです。受講者にとって身近で、具体的なトピックスが望ましいでしょう。
4.3 展開部はスリリングに
4.3.1 いくつかのパートに分け、そのつど要点をまとめる
展開部は授業の中心となり、おそらく1時間前後に及ぶでしょう。学生の集中力を持続させるには、展開部をいくつかのパートに分け、それぞれの要点を明らかにし、つなぎ合わせていく作業が必要となります。事前に十分な構想を練っておくことが必要です。
4.3.2 教科書、参考書からは一定の距離をとろう
展開部では、教科書や参考書の内容をどうやって取り込んでいくかが重要です。教科書に書いてあることをそのまま繰り返すだけならば、授業は平板になりますし、自分で読んでおけばいいということになってしまいます。むしろ、教科書から一定のスタンスをとって、これを客観的に評価したり、批判したりする立場を取ったほうが授業の構図が立体的になり、学生も意見をもちやすくなります。できるだけ教科書、参考書を活用しながらも、これに過度に依存しない、という形態が望ましいでしょう。
4.3.3 仮説と検証、問題提起と謎解き
仮説を設定・検証したり、「なぜ○○は△△△なのか」という問いを立て、クラス全員でその理由を探る謎解き型(問題解決型)の展開により、学生の関心を常に引きつけることが可能になります。重要なのは、こうした作業の一部でよいですから、学生に参加する機会を設けることです。教師がすべてを演じてしまわないようにしましょう。
4.3.4 対立する学説を取り上げよう
授業の展開にメリハリをつける他の手段として、教師が自分の見解を明らかにした上で、これに反対する学説を取り上げ、それぞれの是非を学生に評価させる方法もあります。教師の持論はあくまでも多くの学説のひとつであるという、相対的な認識を学生に与えることも場合によっては必要でしょう。
また、自分と異なる意見をもつゲスト・スピーカーを招くこともできるでしょう。教師同士でもよいし、大学人以外でもおもしろいかもしれません。学生にとっても、いつもと違う人の話が聞けることは新鮮ですし、意見と意見のぶつかり合いは刺激的でしょう。
4.3.5 最新の情報・知識を盛り込んだ実例を紹介しよう
教科書に載っていない最新の情報や知識を紹介してみましょう。学生にとって、教科書の情報は堅苦しくて、日常生活から縁遠く感じられるものです。具体的なケースをあげて、授業で扱う主題が現実社会といかに密接に結びついているかを学生に実感させましょう。
4.3.6 自分の研究成果を紹介しよう
最先端の研究成果が教科書に反映されるには時間がかかります。そこで、ときには自分が研究者として取り組んでいる最新の研究成果の一部を紹介してみましょう。学生の知的好奇心を上手にくすぐるのです。
4.4 エンディングは印象的に
4.4.1 効果的なまとめ
残り10分〜5分になったら、今回の授業の内容をもう1回レビューしましょう。学生を指名して、代わりにレビューしてもらってもいいでしょう。授業の最後は、
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学生に問いを投げかけて終わる
- 最初に提示した主題に対する結論を明示する
- 結論に関連した引用フレーズを取り出す
などいろいろな方法が考えられますが、とにかく、ひとまとまりの話がきちっと終結したのだという印象を与えることが大切です。
4.4.2 次回とのつながりをつける
授業終了時に、次回の内容を紹介し、今回の授業とのつながりを確認します。前回の復習から始まり、次回の予告で終わるという循環型の授業システムをとることで、学生の記憶効率を高めることが期待できます。この方法は、テレビドラマなどによって学生の日常生活に浸透しています。