科学を発信する

出張講義をおこなう

1 学校への出前授業

小中高等学校から出前授業の要請がくることが多くなってきました。行政から奨励されている、予算がつくなどの要因が大きいとは思いますが、学校が開かれたものとなり、生徒が科学者という人々とじかに交流する機会をもつことは望ましいことです。しかし、学校側にも経験と企画立案能力の不足があるため、ともすると研究室への「丸投げ」になってしまい、生徒、教師、研究者の三者にとって不満足な結果に終わることも見受けられます。せっかくのよい機会を生かして、出前授業を成功させるにはどうしたらよいでしょうか。

○まずは、安易に引き受けないという姿勢を見せるのは重要でしょう。どのようなプランを学校側がもっているのか、出前授業の目的は何かを尋ねて、「丸投げ」を防ぎましょう。

○その上で、担当教員と十分な打ち合わせをします。実際にあって打ち合わせができるならそれにこしたことはないのですが、初等中等教育の教員の忙しさは想像を絶するものがあります。ファックスないし電子メールを介したやりとりになりそうです。

○学校ではできない高度な実験や、実物の演示が喜ばれることもあります。どのような実験やデモンストレーションが可能か伝えましょう。

○一方、担当教員からは、次の情報を聞いておきます。

  • 出前授業のカリキュラムの中での位置づけ、単元の中での位置づけ
  • 出前授業の内容
  • 授業の場所、利用できる設備、対象学年、人数、時間数

○以上の情報を元に、出前授業のプランを立てて提示し、意見を求めます。

○出前授業が成功するかどうかの最も重要なポイントは、それが授業全体の中にうまく位置づけられているかどうかです。何だか大学の先生が来て、授業の流れと関係ないことをやって帰って行った、とならないようにしたい、と提案します。具体的には、どのような事前指導と事後指導を計画しているのかを尋ねます。

○このやりとりを通じて、担当教員側に、必要な資料を示して、先生にも準備してもらいましょう。

○多くの場合、出前授業には助手として大学院生が同伴するようです。大学院生にとって、科学コミュニケーションを学ぶよい機会ととらえて、プランづくりの段階から参加してもらい彼らに登場の出番を多くつくってあげましょう。

2 博物館・科学館を活用した講義

科学を展示するところ、と言えば、まず第一に思い浮かぶのが、科学博物館や科学館といった公的施設です。しかし、科学者が博物館や科学館での展示や企画展に直接たずさわる機会はそれほどあるわけではありません。むしろここでは、日常的な科学コミュニケーションに博物館・科学館を活用することを提案しましょう。

わたしたちは、知らず知らずのうちに公開講座や講演会などを大学の中で行うものだと決めつけてしまってはいないでしょうか。たとえば、博物館見学という形をとった公開講座があってもよいでしょう。博物館・科学館の展示は、実物であることが何よりの強みですが、文章による解説を長々つけるわけにはいかないので、どうしても見学者には展示の意味がわかりにくいきらいがあります。あなたが解説をしながら、ポイントとなる展示物を見て回るだけで、たいへんな苦労をして講演会に実物を持ち込んだり実演の準備をしたりする必要はなくなります。