名古屋大学高等教育研究センター第120回客員教授セミナー
米国大学にみるInstitutional Researchの実践と制度的基盤-実務経験に基づく考察と日本への示唆-
| 開催日 |
2026.02.05(木) 15:00-17:00
オンライン
定員:300名
開催レポート
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| 登壇者 |
藤原 宏司 氏(山形大学学術研究院 教授/IR担当者向け実践プログラム ディレクター) |
| 応募締め切り | 2026.02.03(火) 23:59 |
日米の大学で「Institutional Research(IR)」業務を担当した経験に基づき、米国大学におけるIR実践とその基盤を紹介します。IR部署の位置づけ、統合型データベースのメリット、学生データへのアクセスを可能とする連邦法、人事制度の仕組みに加え、間接指標であるGPAの運用、大学評価の目的、州立大学機構の意義、教育プログラム分類コードによる情報活用などを取り上げ、日本への示唆を概観します。
オンライン参加の要件等
・マイクが利用可能で、高速なインターネットに接続されたPC等が用意できること。
・発言等ができる静穏な環境で参加できること。
以上をご確認のうえ、お一人様1アカウントにてお申し込みください。
参加方法
※お問合せ多数につき、定員を増枠(100名→300名)のうえ、再募集いたします。奮ってお申込みください。
参加申込された方にセミナー開催前日までにお知らせします
主催
名古屋大学高等教育研究センター[質保証を担う中核教職員能力開発拠点]
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開催レポート
本セミナーでは、米国におけるInstitutional Research(IR)の実践と、それを支える制度的基盤について、ミネソタ州立大学機構(Minnesota State)での実務経験を中心に報告した。
講演前半では、全米最大級の州立大学機構の一つであるMinnesota Stateにおける統合型データベース「ISRS(Integrated Student Record System)」の開発・運用の軌跡を紹介した。1990年代前半、機構に属する各大学・短期大学は、教務・学生・会計・人事などのデータをそれぞれ独自のITシステムと運用ルールで管理・運用していた。これは、機構としてのデータ集約や議会への正確なデータの報告が困難な状況にあったことを意味する。こうした状況を受け、当時の機構トップは、ISRSの開発を決断した。各大学・短期大学の都合によるローカルなカスタマイズは認めず、「業務を標準システムに合わせる・変える」という方針のもと全体最適を優先した結果、正確性と再現性が担保されるデータ基盤が構築された。
ISRSは単なるITインフラではなく、「業務標準化を実装する装置・仕掛け」であった。この統合基盤があることで、上述した大学運営に係るあらゆる領域にまたがるデータを横断的に結合・分析することが可能となった。これは、今から約25年前の話である。
続いて、米国のIRを機能させている制度的基盤を整理した。学生データの取扱いを定める連邦法「FERPA」により、IR担当者は「正当な教育改善目的」の範囲内で学生データにアクセスする権限が認められている。人事制度については、米国の大学職員は全員が原則として専門職採用であり、部署間の人事異動もない。ISRSのようなITインフラが整備されていれば、高度な専門性を涵養しながら「少人数」で業務を回すことも可能である。実際、発表者が勤務していた大学・短期大学では、全部で約600人の教職員がいたが、人事部の職員は秘書を含めて4人であった。
特筆すべきは、執行部が大学運営における説明責任を直接負い、成果が出なければ契約期間内でも解雇・更迭されうる仕組みが、データ活用の強い動機となっている点である。
IRの組織形態については、BIツールの普及により各部署でデータ活用が広がることと、IR組織そのものが分散することは区別して捉える必要がある。また、理想として語られていることと実際に行われていることを正確に理解することの重要性についても触れられた。米国の大学においてIR部署は分散されていない。そのことを踏まえて、まずは共通基盤を整備し、次に分散的運用へ進むという段階的な整備が必要だと思われる。
講演の後半では、大学評価と教育効果測定に関するトピックを扱った。米国における認証評価の目的は「税金を投入するにふさわしい機関」であるための最低基準を満たしているかの確認であり、ランキングとは異なることを説明した。また、教育効果測定においては、学生の学びを直接測る「直接指標」と、GPAや就職率などの「間接指標」を区別する必要がある。GPAは学業状況のモニタリングには有益である一方、科目成績には学習成果以外の要因が混入しやすく、複数の到達目標が単一の数値に平均化されるため改善点の特定が困難であり、間接指標に分類される。Likert尺度についても、平均値のみの報告は分布の実態を隠す危険があるため、分布や中央値などを併記すべきであると指摘した。
なお、講演資料には公的報告の共通コードとして、教育プログラム分類コード「CIP(Classification of Instructional Programs)」に関するパートも含まれていたが、質疑応答の時間を十分に確保するため当日は割愛した。CIPの仕組みと活用事例については、藤原宏司「米国における教育プログラムの分類コード(CIP)について」(『大学評価とIR』第8号、2017年、pp.33-43、https://doi.org/10.60422/jirue.8.0_33)を参照いただきたい。
質疑応答では、学修成果の可視化における日米の目的やターゲットの違い、全学生対象ではなくランダムサンプリングによって一定程度の情報を得る手法などについて説明した。参加者アンケートからは、「日本の大学が大学自身のためにデータを分析しているのに対し、米国では教育プログラムの改善と学生の利益のために分析しているという指摘が最も印象的だった」「直接指標と間接指標の区別を常に意識して業務にあたりたい」「各部署が自律的に分析を担う体制や専門職採用の考え方について、自分が以前から主張してきたことと一致しており心強かった」といった感想が寄せられた。日米の制度的前提の違いを踏まえつつ、日本の文脈に合わせた「正しい適用方法」をどう設計するかが、今後の課題として共有された。