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名古屋大学高等教育研究センター第230回招聘セミナー

協力的クリティカル・ディスカッションの技法

開催日
2026.03.19(木) 15:00-17:00 オンライン
定員:100名
開催レポート
登壇者 伊勢田 哲治 氏(京都大学大学院文学研究科 教授)
応募締め切り 2026.03.17(火) 23:59

他者の意見に対してクリティカル・シンキングを行うことは対立的な行為だと考えられがちだが、互いの考えの吟味を生産的なものとし、合理的な結論に達するためには、協力的な態度が不可欠なものとなる。このセミナーでは、意見の食い違いの原因を特定し、解消していくためのディスカッションの技法を整理するとともに、その技法を身につけるための授業の実践について紹介する。 

 

本セミナーは Zoom によるオンライン開催です。

オンライン参加の要件等

・マイクが利用可能で、高速なインターネットに接続されたPC等が用意できること。

・発言等ができる静穏な環境で参加できること。

以上をご確認のうえ、お一人様1アカウントにてお申し込みください。

 

対象者

大学教職員、学生、大学関係者

 

参加方法

      参加申込された方にセミナー開催前日までにお知らせします

 

主催

名古屋大学高等教育研究センター[質保証を担う中核教職員能力開発拠点] 

 

諸連絡

いただいた個人情報は、本企画運営の目的にのみ使用いたします

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開催レポート

本セミナーでは、クリティカル・シンキングを単なる批判や論破ではなく、互いの考えを吟味しながらよりよい結論を目指す協力的な営みとして捉え、そのための議論の進め方と教育実践が紹介された。 

 

講演ではまず、クリティカル・シンキングにおける「批判的」とは、相手を否定することではなく、主張を鵜呑みにせず吟味することを意味することが確認された。そのうえで、議論の目的は相手を打ち負かすことではなく、互いの議論をできるだけ適切なかたちで提示し合い、どこに本当の食い違いがあるのかを明らかにすることにあると論じられた。伊勢田氏は、このような討論を「クリティカル・ディスカッション」と位置づけ、その成立には協力的な態度が不可欠であると指摘した。 

 

続いて、倫理的な対立をめぐる議論の難しさが取り上げられた。講演では、善悪や義務に関する判断は、単なる好みの違いとは異なり、「正しい答え」があることを前提として対立が生じる一方で、人びとはそれぞれ異なる「倫理メガネ」を通して世界を見ているため、同じ事象に対して異なる価値判断に至ることがあると説明された。また、倫理をめぐる議論では、一人称的視点からは自らの判断が自明に思えるのに対し、三人称的視点から見れば、異なる前提や感受性に支えられた見方の差異が存在することが示された。こうした複視的な視点をもつことが、建設的な議論を進めるうえで重要であるとされた。 

 

講演ではさらに、意見の食い違いの類型として、「言葉の意味の食い違い」「事実関係についての食い違い」「価値についての食い違い」「問題設定についての食い違い」の四つが提示された。表面的には価値対立に見える論争であっても、実際には用語の理解や事実認識、あるいは議論の前提となる問題設定のずれが原因となっていることが少なくないという。こうした整理を通して、どこに本当の対立点があるのかを見極めることが、無用な対立を避けるために重要であると論じられた。 

 

講演のまとめでは、技法そのもの以上に、討論に臨む姿勢の重要性が改めて強調された。相手の話をよく聞くこと、聞く前から相手の主張を決めつけないこと、検討する前から相手が間違っていると決めつけないこと、そして自分自身の見方やバイアスにも自覚的であることが、協力的な討論の前提であるという指摘は印象的であった。今回のセミナーは、教育の場においても社会的な議論の場においても、不毛な対立を避けながら思考を深めていくための重要な示唆を与えるものとなった。